仲は悪くなければ良くもない両親。
成績は中の上。
容姿もスタイルも中の上。
このまま普通に生きて、
普通に笑って普通に泣いて、
普通に結婚して子供を産んで、
「やっぱり孫は可愛いね」なんて言いながら、
普通に癌とか脳卒中とかで死んでいくんだと思っていた。
不意の事故に巻き込まれて、両親が死んだのは、20歳の夏だった。
大学3年生だった美穂は、一瞬にして、天涯孤独となった。
「しっかりしなきゃいかんよ」
「もっと早くに両親を亡くしてる子なんていくらでもいるよ」
「ちゃんと成人するまで育ててくれて、大学費用も家だって残してくれたんだもん。感謝しなきゃね」
他県に住む親戚たちは口を揃えて言ったが、昨日まで一緒にいた家族が今日から急にいないなんて、誰が経験したことがあるものか。
葬式も何もかも終わって式場から帰り、美穂は無人の家を見上げて、灯りの点いていない家に帰るという20年間で初めての経験にむせび泣いた。
そのとき、隣に寄り添ってくれていたのが、大学に入ってすぐに付き合い始めた浩一だった。
「………家族が……家族が、いなくなっちゃったよ」
暗い家を前に抱き着く美穂の背中に優しく腕を回しながら、浩一は優しく囁いた。
「それなら俺と家族になればいいじゃん」
「――――!?」
見上げた美穂の頬から優しく涙を拭きとると、浩一は微笑んでいった。
「大学出たら、結婚しよ?美穂」
◆◆◆◆◆
ふうと息を吐いた。
美穂のために命を投げ出すなんて、浩一しかいない。
自分が生き返ってしまったら、彼は死んでしまう。
でも自分が勝ち残れば―――。
自分はここにいる誰かの代わりに自殺者として処理されるだけ。
それならば――――。
美穂は顔を上げて正面に座るアリスの顔を睨んだ。
――勝ち上がるしかない。
勝って。
勝って。勝って。勝って。勝って。
最後の1人に残ってやる――!
「いいですね、その目」
アリスも正面から美穂を見据える。
「それではゲームの説明に移ります」
アリスが両手を広げると、テーブルの上にはいつの間にかトランプが乗っていた。
「と……トランプ?」
尾山が眉間に皺を寄せる。
「命のやり取りに、こんなトランプ遊びなどするのか?」
「――――」
アリスは隣に座る彼を見つめた。
「別に違うことをしてもいいですよ。ボードゲームでもいいし、ネットゲームでもいい。障害物競走でもいいし、短距離走でもいい。しかしその場合、一番年齢が上なあなたは不利になりますよ?」
尾山は他のメンバーの顔を見渡すと、ふんと鼻を鳴らし、椅子に凭れ掛かった。
ドッドッドッドッドッ
美穂は自分の胸を抑えた。
鼓動の高鳴りが隣に座る尚子や花崎に伝わらないだろうか。
そして正面に座るアリスに――――。
「ゲームは何ですか?」
自分を落ち着かせるために美穂はアリスに聞いた。
「そうですねぇ」
アリスはトランプを見下ろしながら僅かに首を捻った。
はっきり言って昔からトランプゲームは得意だ。
親戚の集まりでも、友達とのパーティーでも負けたことがない。
ページワンでも、ババ抜きでも。
「じゃあ、あれにしましょうか」
アリスが顔を上げる。
「ダウトゲーム」
美穂は誰にも気づかれないように口の中でニヤリと笑った。
ダウトゲームなら―――得意中の得意だ。
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