テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
102
10,754
ゆゆゆゆ
焼き上がったピザ。
少し歪で、少し焦げている。
だが――
「……いい匂いだな」
ぽつりと漏れる。
自分で作ったはずなのに、
どこか“懐かしい”匂い。
「……食うぞ」
一切れを取る。
まだ熱い。
だが構わず、かじる。
「……っ」
その瞬間。
とろり、と。
チーズが伸びた。
糸のように細く、長く。
「……あ」
思わず少し離す。
だが、切れない。
伸びる。
そのまま――
「……」
向かいにいたノスフェラトゥの視線が、そこに落ちる。
揺れる、白い糸。
湯気。
匂い。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
理性が、遅れた。
――ぱく。
「……っ!?」
チーズの先を、咥える。
距離が、一気に詰まる。
「お、おい――」
思わず声が出る。
ノスフェラトゥはそのまま、ゆっくりと咀嚼する。
視線は逸らさない。
赤い瞳が、こちらを見たまま。
「……」
沈黙。
チーズが、ぷつりと切れる。
距離が、戻る。
「……」
数秒。
完全に、空気が止まる。
「……お前」
やっと声を出す。
「食欲、抑えられねぇのかよ」
軽口のはずだった。
だが。
声が、わずかに揺れる。
自分でも分かるくらいに。
「……」
ノスフェラトゥは答えない。
ただ。
ほんの少しだけ、視線を逸らす。
「……衝動だ」
低く、短く。
それだけ。
「血ではないが」
一瞬、間を置く。
「似ている」
「……は?」
理解が追いつかない。
「……動いた」
ぽつりと。
「無意識に」
「……」
言葉を失う。
冗談じゃない。
さっきの距離。
ほとんど――
「……」
自分の心臓の音が、やけにうるさい。
「……ふざけんな」
視線を逸らす。
ピザをもう一口、無理やりかじる。
味なんて、よく分からない。
「……勝手に来んなよ」
ぼそっと言う。
「びっくりすんだろ」
「……」
ノスフェラトゥは何も言わない。
ただ。
わずかに、目を細める。
「……次は」
低く、呟く。
「気をつける」
「……当たり前だ」
即答。
だが。
完全に怒りきれない。
さっきの行動は――
“捕食”ではなかった。
むしろ。
「……」
思考を止める。
それ以上は、考えない。
「……ほら、食えよ」
ピザを少し押し出す。
「冷めるぞ」
「……あぁ」
短く返る。
ノスフェラトゥは、今度は普通に手で取る。
さっきより、少しだけ慎重に。
静かな食事。
だが。
さっきまでとは違う空気。
ほんの少しだけ。
互いに、意識している。
それが分かる距離。
「……」
pizza guyは、無言でピザを食べながら。
心の中で、ひとつだけ思う。
――“慣れるなよ”
この距離に。
この空気に。
この、妙な関係に。
「……」
だが。
その警戒は。
少しずつ、崩れ始めていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!