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焼き上がったピザ。
少し歪で、少し焦げている。
だが――
「……いい匂いだな」
ぽつりと漏れる。
自分で作ったはずなのに、
どこか“懐かしい”匂い。
「……食うぞ」
一切れを取る。
まだ熱い。
だが構わず、かじる。
「……っ」
その瞬間。
とろり、と。
チーズが伸びた。
糸のように細く、長く。
「……あ」
思わず少し離す。
だが、切れない。
伸びる。
そのまま――
「……」
向かいにいたノスフェラトゥの視線が、そこに落ちる。
揺れる、白い糸。
湯気。
匂い。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
理性が、遅れた。
――ぱく。
「……っ!?」
チーズの先を、咥える。
距離が、一気に詰まる。
「お、おい――」
思わず声が出る。
ノスフェラトゥはそのまま、ゆっくりと咀嚼する。
視線は逸らさない。
赤い瞳が、こちらを見たまま。
「……」
沈黙。
チーズが、ぷつりと切れる。
距離が、戻る。
「……」
数秒。
完全に、空気が止まる。
「……お前」
やっと声を出す。
「食欲、抑えられねぇのかよ」
軽口のはずだった。
だが。
声が、わずかに揺れる。
自分でも分かるくらいに。
「……」
ノスフェラトゥは答えない。
ただ。
ほんの少しだけ、視線を逸らす。
「……衝動だ」
低く、短く。
それだけ。
「血ではないが」
一瞬、間を置く。
「似ている」
「……は?」
理解が追いつかない。
「……動いた」
ぽつりと。
「無意識に」
「……」
言葉を失う。
冗談じゃない。
さっきの距離。
ほとんど――
「……」
自分の心臓の音が、やけにうるさい。
「……ふざけんな」
視線を逸らす。
ピザをもう一口、無理やりかじる。
味なんて、よく分からない。
「……勝手に来んなよ」
ぼそっと言う。
「びっくりすんだろ」
「……」
ノスフェラトゥは何も言わない。
ただ。
わずかに、目を細める。
「……次は」
低く、呟く。
「気をつける」
「……当たり前だ」
即答。
だが。
完全に怒りきれない。
さっきの行動は――
“捕食”ではなかった。
むしろ。
「……」
思考を止める。
それ以上は、考えない。
「……ほら、食えよ」
ピザを少し押し出す。
「冷めるぞ」
「……あぁ」
短く返る。
ノスフェラトゥは、今度は普通に手で取る。
さっきより、少しだけ慎重に。
静かな食事。
だが。
さっきまでとは違う空気。
ほんの少しだけ。
互いに、意識している。
それが分かる距離。
「……」
pizza guyは、無言でピザを食べながら。
心の中で、ひとつだけ思う。
――“慣れるなよ”
この距離に。
この空気に。
この、妙な関係に。
「……」
だが。
その警戒は。
少しずつ、崩れ始めていた。