コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
高校2年 春。めでたく進級した俺(来橋 優光(くるはし ゆうひ))は、人混みをかき分けて新クラスの名簿が貼られている掲示板を見つめる。
(み、見えない……)
かき分けてもかき分けても人は減らず、背伸びをしたり飛び跳ねてみたりしてもまともに見ることができなかった。
「しゃーなし….人が減るまで後ろで待っとくか….」と独り言を呟き、後ずさりすると、何やら大きなシルエットにぶつかった。
「あっごめ…」
後ろを振り返り見上げると、驚くほど爽やかで端正な顔立ちがこちらを向いていた。
自分自身、そこまで噂話が好きな訳では無いし疎い自覚はあるが、さすがに彼の存在は知っている。
去年隣のクラスだった、宇野 影人(うの えいと)。容姿端麗、才色兼備、といった言葉が似合う、この学年のアイドルだ。なんでも、成績は学年トップ。身長は180を優に超えるスタイルの良さ。惚れない女子はいないのだとか。
「…….別に」
…ただ。そのルックスの良さを払拭するほどの愛想のなさと女嫌いで、彼に傷つけられない女子もまたいないらしい。
平凡(勉強に関しては平凡以下)な俺はなんとなくこの宇野という男が苦手で、今だって変な汗をかいている。
これ以上怒らせないように地面に目をやって離れようとすると、宇野は俺の腕を掴んだ。
「?!!何!?」
驚きのあまり声が裏返ったが、そんなことを恥ずかしがる余裕は俺にはなかった。
「….いや、見れたの?紙。」
「えっ….いや…見れてないけど…」
あとで見るから気にしないで、という言葉が喉につっかえた。気にしないで なんて宇野に向けるには自意識過剰すぎる言葉だと思ったからだ。
「….ちょっと、通して。」
宇野がそう一言言うと、それまで騒ぎ立てていた大勢の生徒が花道を作るかのように両脇に寄った。
「宇野くん来てたんだ….かっこいい….」
「威圧感半端ねぇー……」
「今年も同じクラスになれなかったよぉ、、」
口々にそんな感想を呟きながら。
宇野は俺の腕を引っ張って、掲示板の前まで連れていってくれた。
(ありがたい….けど視線が痛いぃ…..。)
あまりにも注目を浴びているのでさっさと確認して退散したい。
急ぎめでクラス表を確認し、自分がB組であることがわかった。いち早く退散しようとしたが、何故か宇野が俺の腕を掴んだままだった。
「あー…..宇野…くん?助かった、ありがとう」
奏寺は無表情のまま俺に視線を向けた。
「クラス、同じ。」
「え?」
クイッと名簿に誘導するような視線につられ再度確認すると、俺の名前の1つ上に、宇野影人と書かれていた。
「えっまじか、よろしくね」
驚きの連続で逆に平常心を保てている俺は、当たり前かのようにそう言った。
すると宇野は小さく頷いた。いつもの無表情かのように思えたが、少しだけ口角が上がって見えた。
それはさておき、なんであいつが?という周囲の視線に耐えられなくなった俺は、ほんとにありがとう、とだけ最後に言い残して全速力で教室へ逃げた。
走る俺の背中に、宇野の視線を感じた…のはまぁ勘違いだろう。