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「セイくん。そろそろお馬さんを休ませてあげない?」
「そうだな。次の道が広いところで休憩にするか」
俺達は練習のため、聖奈さんと交互に馭者席に座り馬車を走らせている。
この街道だが、もちろん現地の人達が長い年月を掛けて作り上げたものだ。
地面は土を踏み固めているだけなのだが、そういった道は日本でも田舎であれば珍しくはない。しかし、ここは地球とは違う。
魔物が出るのだ。
そのため街道は、魔物が出ない又は出現頻度が低いところを現地の人達が長年の経験で道にした経緯がある。
全く出ない訳ではないから、俺は『魔力視』と『魔力波』のコンボを欠かしていない。
街道は魔物よりも賊の方が多いと聞いていたから、おっかなびっくりしながら馬車を操っているのだ。
「おっ!広場があるな」
休憩に適している場所を見つけた俺は、馬車を真ん中から隅に寄せていき、ゆっくりと停車させた。
「セイさん。もう大丈夫そうですね」
先輩からのお墨付きをもらえた。やはり地球での車の運転が効いているようだ。
「セイくん!お馬さんにお水をあげてね」
木の桶に俺は生活魔法で水を満たす。
魔力視や魔力波や生活魔法であれば、いくら使っても魔力の回復速度の方が上回るから、俺が水担当になっている。
ようやく俺にも固定の仕事が出来たな!
結局、雑用だけど……
「セイさんの魔力が豊富で、旅は助かりますね!」
「うん!この真夏にこれだけ楽に旅ができるのは、セイくんのお陰だね!」
そうなのである!
俺の雑用はこれだけではないのだっ!
馬車の中に氷魔法で氷を作り、風魔法でその冷気を馬を含めてみんなに回している。
どんどん魔法が上達していっているのだ!
決して聖とは呼ばせないぞ!
呼んでないよな…?
ウチの馬車は他のすれ違う馬車より大きめだが、積荷が少なく更には涼しいので、他の馬車より馬の負担も少ない。
馬の名前は、聖奈さんは黒王と呼んでいるが、別に黒くはない。
ミランは特に思い入れはないのか馬と言っている。
俺は馬と心の中で呼んでいる。
休憩を終えた俺達は、今日の目的地でもある町を目指した。
休憩後は特に何事もなく、夕方前には町の入り口へと辿り着いた。
「はぁ…」
聖奈さんがため息をついている。
「どうされました?」
ミラン…どうせしょうもないことだぞ?
「ミランちゃん……盗賊に襲われているお姫様が乗っている馬車はなかったね…」
・・・
「お姫様?よくわかりませんが、この国の王族の女性は、婚姻以外で王都を出ることはないと、お聞きしましたよ?」
ミランにお約束がわかる訳ないだろ……
聖奈さんのアホな話を聞きながら町へと入っていった。
町はリゴルドーの街とは違い、建物が全般的に低く木造建築が目立つ。
冒険者組合もあるようだが、街と違い小さいらしくてどれかわからん。
砂煙防止の為の石畳はきちんとあるので、ゴトゴトと車輪の音を鳴らしながら、目的の宿へと向かった。
「ここが今日の宿だね」
「普通の家みたいだな」
「あくまでもリゴルドーと他の街を行き来する人を泊める為の宿泊施設ですからね。小さなものです」
二階建ての古い校舎を小さくしたような建物に、俺達は入っていく。
「いらっしゃい。3人かい?」
宿の受付で声を掛けてきたおっさんに、泊まれるかどうか聞くことに。
「はい。空いてますか?」
「何部屋だい?」
「3人泊まれる部屋があれば、一部屋でお願いします」
3人部屋はなかったが4人部屋が空いていたので、割高だがその部屋にした。
宿で夕食を食べた後、宿の部屋にて。
「じゃあ、ミランちゃん行ってくるね!」
「はい!こちらで何かあれば、適当にあしらっておきます」
今日は聖奈さんとの転移の日だ。
「一先ず家に転移する」
「うん」
ミランを世界間転移に巻き込まない為にも、転移魔法を使い、まずは家に行く。
転移部屋に魔法で転移したあと、聖奈さんにお伺いを立てる。
「じゃあ今日はこのまま地球でいいんだな?」
「うんっ!よろしくね!」
テンションたけぇな。よっぽど旅が出来ているのが嬉しいんだな。
地球へ戻った俺達は、それぞれ出来ることをする。
「私は会社に行くけど、聖くんはよろしくね?」
「ああ。任せてくれ」
聖奈さんはタクシーで出たが、俺は車で別の場所へと向かう。
「すみません。連絡していたWSの東雲と申します」
俺は聖奈さんに指定された場所へ訪れていた。
「ああ。聞いてますよ。図面は頂いているので準備は出来ています」
俺が訪れているのは、金属の加工をしている工場だ。
ここに聖奈さんが注文していたモノを受け取りに来ている。
「ありがとうございます。出来れば前に停めているトラックに積んで欲しいのですが…」
「わかりました。行きましょう」
工場の人にフォークリフトで運んでもらい、借りてきたトラックの荷台に積んでもらった。
「お代はすでに振り込んで頂いています。こちらが領収書です」
「ありがとうございます。また何かあればよろしくお願いしますね」
俺はトラックを運転して、会社へと向かった。
会社に着いた俺は、トラックを倉庫の中に入れる。
「お疲れ様!凄いね!こんな車も運転出来たんだ!」
聖奈さんは労ってくれたが、最初トラックを運転してって言われた時は焦ったものだ。
何せ教習所以外で、初めてマニュアル車を運転したからな。
「まあ、こんくらいはな」
カッコはつけさせてもらうぜ!
「じゃあこれをバーンさんの工房に運んでおいてね!」
そうだった。
置くところも無いし、まだ作業も出来なかったな……
俺は聖奈さんの指示通り、バーンさんの工房に加工済み金属達を転移させて戻ってきた。
向こうでは転移魔法で移動出来るから便利やなー。
工程は家に飛ぶ→転移魔法で工房に飛ぶ。
そこで異世界転移を一往復半すれば良いだけだからな。
会社に戻った俺は、聖奈さんが仕事をしている二階には行かず、今度は転移で砂糖や胡椒を運んだ。
あれ?ここって運送会社だっけ?
まぁ俺の唯一の特技だからな……
「おかえりなさい。私もとりあえず終わったから戻ろっか?」
「了解だ。トラックは狭いけど勘弁な」
聖奈さんを乗せて、レンタル屋にトラックを返しに向かった。
返した後はマンションへ。
「他に用事はないな?」
「うん!後は聖くんの腕だね!」
プレッシャーはやめて…金属加工代結構したんだから……
「聖奈も手伝ってくれよ?」
「もちろんだよ!さっ帰ろ?」
俺達は家経由で、ミランの元に帰還した。
「おかえりなさい。どうでしたか?」
宿の部屋に魔法で転移した俺たちへ、ミランが聞いてくる。
「ああ。首尾は万全だ」
「ふふふっ。これで旅がもっと楽になるね!」
「元々楽ですが、より安全になるのは素晴らしいことですね」
やはりこの異世界の住人であるミランは、楽より安全を重視しているな。
そりゃ街から街へと移動するのに、命懸けだからなぁ。
「じゃあ明日は予定通りだな?今日はもう休むか」
「うん!セイくんはお酒だよね?ミランちゃんはデザートね?はいっ!ふたりともっ」
聖奈さんからご褒美のキンキンに冷えたビールをもらい、俺はご満悦だ。
ミランは冷たいジェラートをもらい、こちらもご満悦。
聖奈さんは両方……腹壊すなよ?
翌朝。町を出た俺達は、人目につかないところまで馬車を走らせた後、下車した。
「ミランは馬を馬車から外してくれ。聖奈は見張りを頼む」
二人に珍しく俺が指示した後、転移魔法で工房に飛んだ。
工房から戻ってきた俺の側には、昨日の金属達がある。
「それじゃあ、馬車の改造を始めるか!」
「うん!ミランちゃんはお手伝いを頼むまで見張りをよろしくね!」
「はい!」
ミランがサブマシンガンを手に哨戒している様は、どこか非現実的だ。
金髪の美少女にサブマシンガンって…ハリウッド映画であれば大コケだろうな。
「一先ず聖奈は荷物を降ろしておいてくれ。それが終わったら手伝いを頼む」
「うん。りょーかいっ!」
俺は馬車の車軸を、車輪ごと外す作業に入った。
馬車にはいつでも馬車の修理が出来る様に工具を積んでいた。
中身は【インパクトドライバー・丸鋸・モンキーレンチなど】だ。電動工具はすべて同じバッテリーで使える。
数時間後。
「出来たな…こんなもんだろ」
そこには鉄で補強された馬車があった。
鉄は外だと悪目立ちするため、馬車の内側に張り付けてある。それを車のロールバーのようなパイプでさらに補強してある。
それに対して、足回りにサスペンション付きの車軸を付けて、車輪もベアリング付きで負荷なく回せるようにした。
馭者席や中のベンチには、低反発素材のマットを敷いている。
簡単に言うと、元々あった幌や木の荷台はハリボテになり、軽量金属が本体になったのだ。
そして、図面通りに加工してもらっていたので、俺でもなんとか組み立てることが出来た。
「凄いね!パッと見はわからないよね?」
「そうですね。問題は馬がどうかですが…」
「大丈夫だろう。重くはなったが、以前のモノより負荷は少ないはずだ」
そもそも荷物がないからな。
「後はソーラーパネルを上に付ければ、いつでもバッテリーが充電出来るな」
「そうだね!でも、まだお馬さんが一頭だから二頭引きにしてからにしようね」
聖奈さんは馬には優しい。…ミランにも。俺には…?
今日は宿には泊まれないので、野営をすることに。
「そろそろ出来上がる頃でしょうか?」
「そうだな。迎えに行ってくる」
俺とミランは野営の現地で設営後、見張りをしていた。
聖奈さんはというと、マンションで料理を作っている。
ミランに少し離れてもらい、俺は迎えに行くことにした。
「地球へ帰りたい」
こうして、初めての野営はなんの苦労もなく、美味しい料理を食べて終わった。
もちろん見張りはしていたが。
「じゃあ、セイくんは寝ててね!」
「ああ。頼むわ」
「おやすみなさい。着いたら起こしますね」
二人にはしっかり寝てもらっていたが、俺は2時間睡眠だったので、次の街まで寝させてもらうことになっている。
夢の住人だった俺を、一気に現実に引き戻す声が掛かる。
「セイさん!野盗です!」