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僕がまだ幼かった頃、大好きなおばあちゃんが死んだことがある。
その時のことを鮮明に覚えているのは、多分それが初めてのことだったからだ。
――ああ、そうだ。
あれは確か、春先の出来事だったはず。
その年は例年よりも寒い日が続いたけど、それでも雪はちらつく程度で積もることはなかった。
ある日の夜中に突然、何かの気配を感じて目が覚めた。
誰かに見られているような気がして薄暗い部屋の中で辺りを確認すると、部屋の隅っこの方にある仏壇の前で動く人影を見つけた。
最初は泥棒かと思って怖くなったんだけど、不思議とその人物が怖いものだとは感じられなかった。むしろ懐かしい雰囲気すらあって、まるでずっと昔から知っている人のようでもあった。
恐る恐る近付いてみると、そこにいたのは黒い着物を着た小さな女の子だった。
「あぁ、よかった!お兄さん来てくれた!」
そう言って駆け寄ってきたその子の顔を見て驚いた。
僕の妹に似ている気がしたからだ。
「ねぇ君、名前は?」
「あたし?あたしの名前はね……あれ?名前が思い出せない……」
どうやら記憶喪失みたいだ。
とりあえず僕はその子を連れて家に帰った。
それからというもの、なぜかその子は毎日僕の家に遊びに来るようになった。
「お兄ちゃん遊ぼーよ!」
「えぇ~?仕方ないなぁ」
「やった!じゃあおままごとしよう!」
「はいはい分かったからちょっと待ってて」
正直最初は面倒くさいと思ったけど、一緒に遊ぶようになってからは段々と楽しくなっていった。
そんなある日のことだった。
妹が亡くなった。
交通事故に遭ったらしく、即死だったという。
葬儀には多くの人が参列してくれた。
その中には当然彼女の姿もあった。
「……あの子が亡くなってしまったなんて、信じられませんわ」
「そうだよね……。でも本当なんだ。残念だけど……」
「いえ、分かっていますわ。でも、それでもやはり悲しいのです。ごめんなさい」
「謝ることじゃないさ。それに、君は悪くないし」
「ありがとうございます。……では、失礼します」
その日以降、彼女が再び姿を見せることはなかった。
「いやぁ、まさかこんなところで会うとは思わなかったぜ」
「それはこっちのセリフだよ。元気してたか?」
「まぁボチボチだな。お前こそ相変わらずみてぇだな」
「そりゃどーも」
久々に再会した友人との会話はとても楽しかった。
やっぱり持つべきものは友達だと実感した瞬間でもあった。
「そういえば、例の子とは最近会わないのか?」
「あぁ、うん。まぁね。なんか最近は忙しいみたいよ」
「ふーん、そっか。まぁアイツには色々と世話になったからな。俺もたまに会いに行ってみるかな」
「えぇ~! それじゃあアタシはどうすれば良いのよ!」
「知るか」
「ひどぉい! ねぇ聞いてくれる? このあいだもさ――」
「断る」
「もうちょっとだけお願い! ほんとに困ってるんだよ~」
「お前の相談事なんてロクなことじゃないんだろ」
「そんなことないってば! ほら、この間言ってたアレの話だよ!」
「どれのことだよ」
「えっと……ほら、あれ。あの、好きな人の話」
「ああ、あれか。それがどうかしたのか?」
「実はね、その人に告白しようと思うんだけど……」
「おい待て。まさか本気で付き合えると思ってんじゃないだろうな?」
「違うわよ! ただ、ちゃんとお付き合いしてみたいなぁって思ってるだけで」
「そういうのを世間一般では『本気』っていうんだよバカ野郎」