「佳ちゃんは?いる?」
‘佳佑はいない’
‘おいっ、お前の誕生日だからと静かに我慢してたのに、いないってなんだ?あぁっ?’
‘俺に電話してきたんだから、いいだろうが’
‘リョウコもお前の誕生日に配慮しただけ、代われよボケッ’
‘無理に決まってんだろ。これ俺のスマホ’
‘心の狭い男だな?あぁ?小さい男は嫌われっぞ’
‘けっ…負け惜しみにしか聞こえねぇな’
‘ぐだぐだ言ってねぇで…おらっ…颯佑っ’
二人は高校生の時に、佳ちゃんがソフトヤンキー、颯ちゃんがヤンキーと呼ばれていたことは知っている。
最近の穏やか口調ではない二人に
「ねぇ、颯ちゃん。切るよ。佳ちゃんにかけるよ」
‘無理。このまま一晩中‘颯ちゃん’って言っておけよ’
「お腹へった……」
‘……今日もう一度電話しろ。明日じゃなく今日もう一度電話して’
「わかったよ、颯ちゃん」
と、一旦通話を終えることにした。
二人は仲良く軽トラに乗って帰宅するはず。
少しあとに佳ちゃんに電話をして、もう一度颯ちゃんかな。
でも帰りたいとは1ミリも思わない…私は一生あの地へは戻らないのだろうか…
お兄ちゃんとも颯ちゃんとも佳ちゃんとも、すごく久しぶりに話をする緊張は最初だけで、一言話せば普通に話せる気がするのは、皆が誰一人帰って来いとは言わない気遣いをしてくれているから?
それとも、彼らと私の20数年間の絆とうぬぼれてもいいのだろうか……
「佳ちゃん、いっぱい心配ごめんね、ありがとう」
‘大丈夫って伝言を信じるしかなかったけど、三岡先生が本当に大丈夫って顔で言うから……信じてた’
「うん。先生にはすごくお世話になってる」
‘俺たちが何言っても‘佐藤さんは私のクライアントです’‘お教え出来ません’って冷たい声で言うんだ。何度も先生の事務所で暴れようかと思ったけど、リョウコの顔を思い出して耐えた’
「ふふっ、暴れちゃダメだよ。大事なお店もあるのに……おじちゃんとおばちゃんも元気?」
‘元気。リョウコは人の心配するな。こっちは何人もいるけど、リョウコは一人で頑張ってるんだから’
「…うん」
お兄ちゃんと会ったことは言えなかった。
言ったら東京にいると言っているようなものだ。
両親にも連絡しなきゃいけない。
人と連絡を取り始めると自然とそういう気持ちが湧いてくる。
私は佳ちゃんとの電話を終えると、誰もいない自宅に電話をかけた。
両親の電話番号を覚えていないし、留守電に私の番号を残しておこうと思ったのだ。
ところが留守電にならずに
‘もしもし’
「えっ……お母さん?なんで…」
‘良子?良子っ!お父さーんっ、良子、良子よー’
お母さんの大声が響いてきた。
コメント
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佳・颯兄弟🤣暴れる寸前だったんだね!ソフトヤンキーにヤンキー🤣よく耐えたよほんとに👏👏 良子ちゃん少しずつ動き出したね!焦らず自分のペースでね。やならやめればいい。 良子ちゃんと佳・颯兄弟の20年間の絆は変わらないよ☺️