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第41章 「神殿への引き渡し」
神殿門前
俺たちは捕えたアドルを連れ、夜明けと共に神殿へ向かった。
白い石造りの神殿は、朝の光を浴びて威厳を放っている。
しかし、その奥に“裏の評議会”が潜んでいると考えると、輝きがどこか不気味に見えた。
衛兵が驚いたように目を見開く。
「そ、それは……南商会の幹部か!? どうしてお前たちが……」
「神殿に伝えろ。巫女を狙った者を捕らえた。責任ある者に引き渡したい」
俺の言葉に、衛兵は慌てて奥へ駆けていった。
聖騎士との対面
やがて姿を現したのは、以前も顔を合わせた神殿騎士セルディンだった。
「……本当に捕らえたのか。お前たちの働きは見事だ」
セルディンは感心したように頷き、俺たちからアドルを受け取る。
「神殿にて尋問を行う。真実は必ず暴こう」
だが、アドルは怯えた目で俺を見た。
「ま、待て……! 評議会は……神殿の中に……」
言いかけた瞬間、兵たちが口を塞いだ。
その慌ただしさに俺の胸がざわつく。
本当に“真実”を暴く気があるのか?
さざ波の疑念
俺が黙って見ていると、ミリアが小声で囁く。
「……妙ね。処遇があまりに早い。口封じされないといいけど」
ルーラも不安そうに呟く。
「もし……神殿に敵がいるなら……」
確かに、アドルを渡すことで、逆に証拠が消される可能性もある。
だが、俺たちだけで抱え込めば狙われるだけだ。
難しい選択だったが、今は神殿の動きを見極めるしかない。
評議会の影
セルディンは俺の目をまっすぐに見て言った。
「心配はいらない。神殿には正義を守る者もいる。だが……全員ではない」
その言葉はまるで、こちらの疑念を肯定するようだった。
やはり内部に裏切り者がいるのだ。
「評議会の名が出たのは確かだな?」
俺の問いに、セルディンは眉をひそめる。
「その名を軽々しく口にするな。だが……お前の耳に入った以上、もう後戻りはできない」
静かに言い残し、彼は幹部を連れて神殿の奥へ消えていった。
新たな接触
その日の夕刻。
俺たちが宿に戻ると、一人の神官服の少女が訪ねてきた。
まだ年若いが、真剣な眼差しで俺たちを見つめる。
「……評議会の耳に入る前に、貴方たちに伝えたいことがあります」
その声は震えていたが、必死さが滲んでいた。
どうやら――神殿内部にも“協力者”がいるらしい。
次章への布石
アドルを神殿に引き渡したことで、俺たちは確かに一歩進んだ。
だが同時に、“消される可能性”という大きな危うさを背負った。
神殿の少女の言葉が真実なら、ここから内部抗争が本格化するだろう。
俺は剣の柄を握りしめ、静かに息を吐いた。
「神殿の光と闇……。いよいよ踏み込むしかなさそうだな」
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