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旅館に戻ると、しっかり料理が準備されていた。海鮮がメインの懐石料理。お昼にも食べたけれど、種類も量もたくさんあって食べ切れるか心配になってきた。かなりの距離を歩いたので、二人とも少し疲れている。まずは座ってゆっくり飯でも食べるとしますか。
俺は買ったお土産とカメラをバッグにしまって、料理とともに用意されていた座布団に腰を下ろした。続いてあろまも座る。
「予想以上に豪華だな」
「匂わせしようぜ」
俺の分が少し見切れるくらいの画角で、料理の写真を撮っていた。
「どっか載せるの?」
「いや?」
「それじゃあ匂わせ関係ないじゃん」
「いいんだよ自己満だから」
SNSに上げるつもりはないと、写真を見て言った。誰の目にも止まることはないけど、俺たち二人しか知らない旅行って考えると、やっぱり嬉しいわけで。
刺し身やら寿司やら、目を引くものばかりだが、最初はやはりこれがいい。熱いうちにとその蓋を取る。あろまも同じことを考えていたみたいで、二人同時に声を上げた。
「「うまそ…」」
素朴な見た目だがその奥深さは他の料理には引けを取らない。茶碗蒸し出汁の匂いが鼻をくすぐる。一口掬って口へ運ぶ。その味はやはり市販のものでは味わえないほどで。
「あつっ…」
猫舌のこいつはちょっとずつだが食べ進めていた。少し冷ましてから食べればいいものを…待ちきれなかったんだろうな。
その後も、話をしながら食事をした。最近やっているゲームの話とか、行ってみたい旅行先の話とか。朝の雰囲気からは想像もできないほど話は盛り上がり、終始笑顔が耐えなかった。
旅行中俺が撮った写真も見ていた。その時のこいつはなにか言いたげで、でも聞いても何も答えてはくれなかった。ただ、いい写真だね、とだけ言ってくれた。さっきの怪訝な顔を思い出した。俺、何かおかしいことしたかなぁ…
「そういえば、部屋風呂ついてたよね」
「露天風呂あるってよ。もう入れるみたい」
夕食を終えて少し休んだところで、俺はこっそり買ってきた日本酒の瓶を渡した。
「えおえお〜、お前粋だねぇ」
「この位の量なら俺らも飲めるよね」
「酒飲みながら露天風呂か…いいね、俺そういうの好き」
どうやら喜んでくれたみたいだ。俺も一度はやってみたかったことだ。景色のいい露天風呂で酒を飲む。この上ない贅沢なシチュエーションだ。
部屋にある浴衣を準備して、早速日本酒を開ける。しかしそこでふと、ある考えが頭をよぎる。メンバー全員で旅行に行くときはなんの気兼ねなく普通に裸の付き合いができるのだが、どうしてこうも二人だけとなると変に意識してしまうのは、俺がまだ自分の気持ちに整理がついていないせいである。
もちろん相手にとっては俺はただの友人でしかないからそんなこと気にも留めないだろうけど。俺としては今ここでっていうのは…俺は緊張感が高まっていくのを感じた。
「先入ってるわ」
変に悟られるのが怖くて、俺は先に湯船に浸かることにした。
しばらくして、あろまが入ってきた。俺は意識しないように景色を眺めながら、煩悩をかき消すように違うことを考えたりしていた。でもそんな俺の努力とは裏腹に、ちゃぷ、という水音が俺の頭を刺激する。
「ちょうどいい温度だな」
そう言って俺の隣に腰を下ろす。ふぅ…と一息ついては夜空を見上げていた。正直、目のやり場に困っている。こんな広々とした露天風呂なのに、なんでわざわざ隣に来るのかもわからないし、俺の気持ちを知ってか知らずか、弄んでるのではと思うのは俺のエゴだ。
こんなこと言うのはセクハラですねって感じなんだけど、男の割には細身の体つきが綺麗だと思う。色白で、線が細いから何を着ても似合うし、何なら企画の女装は最高だった。
(目の毒なんだよなぁ…)
あまり見ないようにしていても、いま隣にこいつがいる。二人きりの旅行だって、まさか付き合ってくれるなんて思わなかったからずっと嬉しさが消えてくれない。珍しい笑顔もたくさん見せてくれて、それでも期待しちゃいけないとわかってるんだけどなぁ…
そんなことを思っていても、俺の口をついて出た言葉はしんと静まり返ったこの場所ではよく響いたんだ。
「好きだ」
To Be Continued…