テラーノベル
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深夜2時。
「っ!」
阿部は突然に覚醒した。
知らないうちに手を硬く握りしめ、奥歯を噛み締めていた。
動悸がする。
(夢だ。今のは夢だ)
暗闇を睨みながら、自分に必死に言い聞かせた。
次第に動悸は落ち着いてくる。
けれど、すぐまた目を閉じることができず、阿部は隣で寝ている岩本を起こさないように、そうっとベッドを抜け出した。
暗いリビング。
明かりをつけることはせず、ソファの上で膝を抱えて座る。ぼんやりと真っ暗なテレビを見つめた。
(…久しぶりに見たな)
さっき見た夢を反芻する。昔、活動を休んでいた頃によく見た夢だった。
世界中から拒絶される夢。
差し出した手を振り払われ、言われるのだ。
“お前はいらない” と。
泣いても叫んでも、誰も振り向かない。暗く寒い世界に1人残され途方に暮れる、そんな恐ろしい夢を何年かぶりに見た。
自分は独りでは無い。必要としてくれる人がいる。あの頃の漠然とした不安など、今は無い。
けれど久しぶりに思い出された暗い感情は、阿部の心をざわつかせた。
ふと思う。
岩本に”いらない”と言われたら、と。
胸が締め付けられる。また動悸がしてきた。
(落ち着け。落ち着け)
心の中で何度も繰り返す。それでも悲しさがどんどん湧いてきた。良くない思考に陥っていく。深呼吸をして気持ちを落ち着けようとしても、うまくいかない。
泣き出しそうになって、硬く目を瞑る。
そんな時
「眠れない?」
声がかけられた。阿部は、はっと顔を上げる。岩本がやって来て隣に座った。
「どうした?」
阿部の様子を見て、岩本は静かに優しく問いかけた。手を伸ばし髪を撫でる。
「…怖い夢見た」
阿部は、ぽつりと口にした。
「みんなに”いらない”って言われて、独りになる夢」
「みんな?メンバーってこと?」
「知ってる人も知らない人も、みんな」
説明していて、また悲しくなる。
「…そっか。辛かったね」
岩本が言って、阿部の肩を抱いて引き寄せた。
その手の温かさに、現実感を感じる。
「でも、ただの夢だよ」
穏やかな口調で言われて、阿部は小さく頷いた。
「なんかあったかい物でも飲みな。今、入れるから」
そう言うと岩本は、席を立ってキッチンへ行った。阿部は握りしめていた手を開く。手のひらに爪の跡がつく程に、強く握っていた。
怖い夢を見て悲しくなって、慰めてもらうなんて、まるで子供だ、と阿部は自分に呆れる。それでも岩本に、ただの夢だ、と諭されてほっとしたのは事実だった。
しばらくして岩本が、湯気のたったカップを持って戻って来た。
「ありがとう」
両手で受け取り礼を言う。ふわりと香るのは、カモミールだろうか。確かカモミールには鎮静作用があったな、と阿部は思い出す。岩本が自分を気遣って、選んで淹れてくれたことが嬉しかった。
そして、やっぱりこの人に要らないと言われたくないな、でもそんな日もいつか来るのかな、と漠然と思う。
「ねえ、ひかる」
阿部は、カモミールティーを一口飲んで、小さく切り出した。
「もし、ひかるが俺の事、もういらないって思う日が来たらさ、罵倒でも暴力でも、何でも良いからして」
岩本を見る。彼は黙って、阿部を見つめながら、話を聞いていた。
「ちゃんと俺が、ひかるのこと嫌いになれるようにして」
気持ちが残らないように、こっ酷く傷つけて欲しかった。
「…阿部がそうして欲しいなら、そうするよ」
低く静かに岩本は言った。良かった、と阿部はカップに目を落とし、うっすらと笑みを浮かべる。
「でもさ」
そんな阿部の頬に触れ、岩本は微笑んだ。
「そんな日、来ないよ」
そして言う。阿部が岩本を見ると、彼の穏やかな目と目が合った。
「いらなくなるわけないじゃん。やっと手に入れたのに」
阿部はその言葉に、涙腺が緩むのを感じた。じわりと目頭が熱くなる。
「案外、阿部の方が俺に、先に愛想を尽かすんじゃない?」
岩本が冗談ぽく笑った。
「そんなのあり得ないよ。俺はずっと離れたくない」
阿部は前のめりになって言う。岩本は笑って、阿部にそっと口付けた。
「じゃあ、大丈夫じゃん。心配することないだろ?」
潤んだ阿部の目の端から、一粒涙が溢れた。
「お茶飲みな。で、飲んだら寝よう」
指で涙を拭ってやって、岩本はそう促す。
阿部は一つ頷いて、お茶を飲んだ。温かいお茶と優しい言葉に、阿部の心はやっと平穏を取り戻した。
温かい飲み物で体が温まると、眠気が戻って来る。
「カップはそのままで良いよ。片付けは明日やるから」
言われるままにカップをテーブルに置き、阿部は立ち上がった。そして、岩本と共に寝室へ戻る。
2人はベッドに潜り込むと、互いの身体を抱きしめ合った。
「…ねえ、阿部。俺、お前が思ってるより、お前のこと好きだかんね」
阿部の背を撫でながら、岩本は言った。
「ホントはさ、閉じ込めておきたいくらい。それくらい大事に思ってるし」
「大袈裟」
阿部が小さく言って、少し笑う。阿部が笑うのを見て、岩本はほっとした。
「…俺が守るから」
「うん…」
岩本の言葉に阿部は頷き、目を閉じた。あの夢をまた見るかもしれないという不安感は、もう無かった。岩本の体温を感じながら、阿部は徐々に眠りへと誘われていく。
しばらくして、彼は静かな寝息を立て始めた。阿部が眠ったのを確認して、岩本はそっとその髪を撫でた。
阿部は大袈裟だと笑ったが、岩本のさっきの言葉は案外本気だった。
許されるなら、誰の目にも触れさせずに、囲っておきたい。負の感情に惑わされないように、ずっと愛の言葉だけ伝えていたい。
過保護だな、と自分でも思う。
けれど、誰にでも優しい阿部が、不用意に傷つけられないようにしてやりたかった。
もう2度と怖い夢を見ないで済むように。
いらなくなる日が来るかもなんて、思わせないように。
「…心配しなくて良いよ」
穏やかな口調で囁く。
「俺がいるから」
自分の存在が、阿部の心の支えになれれば良い。
自分がいれば大丈夫だと、思って欲しい。
そんなことを願いながら目を閉じる。
そして彼もまた、再び深い眠りに落ちていった。
コメント
7件
泣いちゃった🥹 不安になる💚とそれを包み込む💛が良すぎて…🤦🏻♀️🤦🏻♀️🤦🏻♀️


ひかるーーー🥹 こんな安心させてくれる言葉 うれしいな。 真剣に向き合ってくれて 幸せな未来しかみえない😚