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出水目線最近、ナマエの様子がおかしい。
……って言っても、たぶん、他の人には気づかれない程度のものだ。
学校じゃいつも通り明るいし、
ボーダーの訓練でもサボるわけでもなく、ちゃんとやってる。
でも——
(笑い方が、少しだけ薄くなった気がするんだよな)
何気ない会話をしてても、どこか一歩引いたような雰囲気がある。
それが、ずっと胸に引っかかっていた。
(夜、道で会ったときも……)
本当は、あの時もっと踏み込みたかった。
でも俺が出過ぎると、たぶん彼女はそれすら笑って流すだろう。
(……どうしてそんなに、一人で全部抱えるかな)
そんなことを思いながら廊下を歩いていると、
曲がり角でちょうど、前から来たナマエとすれ違った。
『あ、先輩……っ』
声をかけかけて、彼女の表情を見て息を呑む。
「おい、ナマエ……?」
顔が真っ青だった。呼吸が浅く、手は震えてる。
(まさか——)
慌てて腕を取って、支える。
「ちょっと、保健室行くぞ」
『……だいじょぶ……』
「よくない。ほら、歩ける?」
『ん……』
かすかにうなずいた彼女の手をそっと引く。
それは、壊れものに触れるような慎重さだった。
ーー
保健室のベッドに座らせて、タオルを持ってくるふりをして、
俺は少し距離を取って立った。
「……やっぱり、何かあるんでしょ?」
ナマエは、薄く笑った。
『え、なんの話ー?』
「……そうやって誤魔化すとこ、ほんと器用だよな、ナマエ」
声が少しだけ強くなった。自分でも驚いたくらいだ。
「俺さ、別に全部言えって言ってるんじゃない。でも……なんで、そんなに、頼ってくれねぇの」
彼女のまぶたが、わずかに震える。
『……頼っていいの?』
「当たり前だろ」
それ以上は、言葉が出てこなかった。
この子が、どんな地雷を抱えてるのか俺にはわからない。
でも、ただ一つ確かなのは——
「俺に話してくれてもいいのに」
その言葉だけは、どうしても口に出したくて。
ひよりが黙ったまま、枕元のシーツをぎゅっと掴んだのを見て、
それ以上は何も言わなかった。
ただ、傍にいた。
それでいい。今は、それだけでいい。