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守護獣とは、覚醒者の潜在能力が具現化したもの――らしい。

その人の特性に合わせた力を持ち、迷宮内ならば魔力も尽きることがない。私の火の鳥だと、あの強力な火炎も放ち放題ということだ。


「じゃあもう、この子に戦ってもらえばいいね」

誰だって、安直にそう思うだろう。

するとなおひこは、フードで顔が見えなくても分かるくらい、しょうがない子だな、という雰囲気で肩をすくめてみせた。


「優香。それじゃダメなんだ。基本的に、これは本能や無意識に近いものだからね。暴走する可能性もある。ある意味、魔物より厄介かもしれないよ?」

その言い方は近所の優しいお兄さん、という体に感じる。


「えぇ~……」

「だから、仲良くしないとなんだ」

「ペットみたい」

「うーん、そういう見方も出来るか。理性が上じゃなきゃいけない、ということなんだ。君がこいつに頼り過ぎれば、君自身が本能に取り込まれることになる」


「え、なにそれ……なんか怖い」

「まぁ、君はそうなっても大人しそうだけどね。ハハハ」

――悪気はないのだろうけど、なおひこってデリカシーがなさそう。


「それでこの子、地上に連れて帰ってもいいの? エサは何食べるの?」

「エサは君を通した魔力だ。常にこの鳥に注ぎ続けるイメージだね。本当は、一本、糸が繋がっているような状態が良いんだけど」

君にはまだ無理だろう。という言葉が、そこまで出掛かったような言い方だ。

実際に難しそうではあるけど。


「分かった。じゃあ頑張って飼うわ。名前は後で考えるとして……それより、そろそろユカの体を返してよ」

側でずっと私を見ている、ユカの体に居る誰か。というか、迷宮の主だろうか。

値踏みするようにしげしげと私を眺めては、少し不満そうに首を傾《かし》げている。


「こんな小娘を気に入ったのか……」

「小娘で悪かったわね。とにかく戻して。ユカに言いたいことがあるのよ。その、お、おっぱいを勝手に吸ったらダメって、ちゃんと言っておかないとだから」

「ふっ。この妹分は、寂しい子だからな。許してやれ」


「勝手に服を脱がせちゃ駄目ってこともよ。……まぁ、なんとなく、大変な思いをしてきた子なのかな、とは思ってるけど」

ユカが迷宮に居る理由は、この偉そうな人が居るからなのは分かる。でも、なぜ迷宮に来たのかは見当もつかない。


「ふむ……。このユカは、貴様と地上に行って、暮らしてみたいそうだ。どうする?」

「えっ? 急に何? どうするって、言われても。でも……まぁ、両親もいるし、大人しくしててくれるなら、出来なくはないかも?」

一瞬、即答で無理だと言いそうになった。

だけど、ユカもこの人の中で聞いているかもしれない。そう思ったら、答えを肯定気味に濁すしかなかった。


「ならば、育ての親として、妹分について話しておく必要があるな」

「は、はい」

なに、この展開――。

「僕も気になっていた。聞いていてもいいかな?」

「……よかろう。ユカの許しが出たようだからな」



**



そうして語られたのは、割と重い内容だった。


まず、ご家庭はとても貧しかったらしい。

お父様は迷宮で大怪我を負って再起不能。その後は国から降りるわずかな補償を酒代に潰し、家庭崩壊。お母様は元々が子嫌いらしく、常に当たり散らされていたとか。とにかく、幼少期から、というか生まれてからずっと、辛い暮らしだったという。


そして訪れた転機は、小学校高学年の時。

私のように学校での定期検査で、魔力の素養があると分かってしまった。

ただ、中学生までは、強制で連れて行かれたりはしない。

でもこのご両親は、ユカを国に売ったのだという。実際に、お金で。


それだけでも相当なショックを受けていたのに、訓練が終了して迷宮に潜っていたある日のこと。

私と同じように、男どもに襲われたらしい。


かろうじて未遂で済んだとはいえ、その理由は魔物の群れに襲われたから。その上、そこでユカは捨て駒の囮《おとり》として、魔物の群れに放り投げられた。

無事だったのは、偶然か必然かは分からない。

その絶望の中で、覚醒したからだった。

ユカの発現した特異な能力が、その身を守った。


「魅了だ。この妹分の力は」


それは、魔物さえ平伏《ひれふ》させる強力な力だという。

絶大な強さを誇る龍を従えているのも、魅了ならでは。つまり、ユカの白い龍は第二覚醒の守護獣ではない、ということ。


そしてその魅了は、人間にも当然効く。

何年も迷宮で暮らしているうちに、無意識にコントロールはしている。ということらしいけれど。


この人がユカを初めて見た時は――。

魔物を引き連れ侍《はべ》らせている姿だったらしい。そして、魔物もせっせとユカの世話をしていた。その光景を見たこの人が、珍しいからと保護したのが、二人の関係の始まりらしい。



**



「この話を聞いて、預かるのか?」

この人は……私にユカ預かって欲しいのか、それとも断って欲しいのか。


でも普通に考えて、断って欲しいなら有無を言わさず連れ去っているはず。この場に留まる意味はない。ならば、これは私の返答いかんで決まってしまう――?


「たぶん、優香に魅了は効かないよ。というか使わないだろう」

「どういうこと? どうして?」

「君は随分と気に入られているようだからね。効果が弱まる。だから本気で魅了を使われない限り、大丈夫だと思うよ」


そんなことが、なおひこに分かるのだろうか。効かないという保証もないのに。

それにこの際だからこの、ユカのお姉様の本心を聞いてしまおう。私は……急に言われても困るし、ユカをどう扱えばいいのか分からない。


「ていうか、あなたはお姉さんなんでしょう? 離れても平気なの?」

「いつでも連れ戻せるからな」

「あ、そう……」

――あぁ、これ、任されるやつだ。


「僕は……こんな、まだ中学生くらいの子がずっと迷宮に居るのは、良くないように思うよ」

あなたは他人事ですものねぇ……。

「手伝おうか? 僕も様子を見に行こう」


「勝手に話を進めないで」

お母さんとお父さんに、何て言えば良いのか。それに、魅了をお父さんに使ってしまったらどうするの? 修羅場どころでは済まないし、何ならお父さんが殺されるんじゃ……。


「余は貴様を見ていて害はないと判断した。しばらく預けるとしよう」

「え、ちょっと待って――」

勝手に置いていくな!

「お姉ちゃん。わタしのこと、連れてってくれる?」

「あっ……。えっと。うん……」

くそう。ほんとに置いてった。


「やったぁ! お姉ちゃんとね、一緒にお食事したい」

「えっ。ちょっと、勝手に人を殺してきたりしないでよ?」

「うん。お食事は、ゴハンとは違うから。大丈夫」

「それって……お食事は、魂のことじゃないのね?」


「うん。わタし、ハンバーグ? 食べたい」

さっきまでのお姉様状態と違って、本当に屈託なく笑う。ユカに戻っている。


それに、どんな風に育ったかを聞いたせいで……そのハンバーグに、どんな想いがあってそう言っているのか。もしかすると、唯一楽しく食べた食事がそれだったのかなとか、勝手に想像してしまう。


「わかった。わかったよ。それじゃ、帰ったらハンバーグ食べよう。お母さんとお父さんにも、ユカのこと紹介するね。一緒に住もう」

まぁ……どうなるかは分からないけど、しばらくなら大丈夫だろう。


「あっ。待って。迷宮出た時の帰還報告、どうしよう」

私はソロで届を出しているし、迷宮内で行方不明の中学生なんて……もしかしたら結構有名な捜索不明者かもしれない。


「優香の危惧したことは理解した。だけど、実は迷宮って、他府県のものと繋がっているんだ。遠い所では他国の、しかもヨーロッパと繋がっている所もある」

「はい? そんなの知らなかった」

教わったこともない。


「滅多に無い事だけど、あるにはあるからね。しかも、ルートが不明なんだ。見つかったのは国内でも数えるほどだし。照会を取るにも時間が掛かるから、見つけたとだけ言えば、素通り出来るはずだよ」

「それでも、写真と書類くらい取られるでしょ?」


いきなり手詰まり感がある。報告書を出すと、絶対に上層部から呼び出しもくらうだろうし……そうなると、ウソはいつかバレてしまう。私じゃ、絶対に誤魔化せない。


「……出られないの? わタし、お姉ちゃんのおうちなら知ってるよ?」

「――あっ。そうか。ユカは別に、正規の出入り口を通る必要ないんだ」


不思議そうな顔をするなおひこに、この子だけが知っている出入口があるのだと教えた。するとなおひこは肩をすくめて、それなら何も問題ないな、と笑った。

いや、問題はあるんですけどね。全部私にしわ寄せが来ていることを、この人は何も分かっていないらしい。デリカシーというか、色々と考えが足りなさ過ぎる。


「絶対モテないでしょ」

「うん? 何か言ったかい?」

「いいえ?」


「ねぇねぇ、お姉ちゃん。もうおうちに行っててもいい?」

「えっと、私が家に戻ったら、ユカは分かる? 分かるなら、私が家に帰ってから出てきてくれる?」

「わかったー!」


ご機嫌だと、こんなに素直に返事をするのか。

殺すだの食べるだのと言っているのが、同じ子だとは思えないほど可愛らしい。

「ちゃんと私の言うこと、聞くのよ?」

「うん!」

結局、こうなってしまった。

どうするんだ、私……。

魔宮の広がる世界より

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