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#ファンタジー
「勇者パーティへの帯同が認められただと? ド新人のお前が……」
小兵な男性記者が気色ばむ。
「私一人だけならと念を押されたんです。どうにもならず、許して下さい」
対するユミヨは身をこわばらせる。
「その対価が、ミレニへの追及をやめる事とはな……」
男性記者が低くこもった声でユミヨに詰め寄る。
「ふざけるなよ! 折角スクープの種にありつけたのに、それを台無しにしやがって」
怒気のこもった丸顔が肉薄し、ユミヨはたまらず両目をつむる。
「オズモ君、そのぐらいにしたまえ!」
見かねたモズルフが横やりを入れる。彼はサスペンダーに両手を差し込み、姿勢を正した。
「馬車の御者として同行する私の助手を頼んだのだ。特段、花形の役目と言うほどではない」
舌打ちしたオズモは、ユミヨを睥睨するとその場を辞した。
「悪く思わないでくれたまえ。彼も入社二年目の準新人、功をあせっているのさ」
モズルフが垂れ目に優しさを込める。
「レカーディオさんの力になりたくて、つい勇み足になってしまった。反省しています」
「そう気にしなさんな。若い男は競争心の塊だからよ」
しょげかえるユミヨの側に、ドワーフのロコモンが歩み寄る。
「ありがとう、優しいのね」
ユミヨが何とか笑顔を取り戻す。
「ロコモン君。悪いが、一旦リディオパークで待機してくれたまえ。ユミヨ君の帰り道を任せる予定だ」
モズルフはそう言うと、幾ばくかの金銭をドワーフに手渡した。
「ユミヨさん、道中くれぐれも気を付けてな」
ロコモンはそう言い残すと、ユミヨと手を振り合いつつ街中へ姿を消した。
一息ついたモズルフが改めてユミヨに向き直る。
「猫かぶりの森に目を付けるとは、中々の土地勘だねぇ。恐れ入ったよ」
「任せて下さい! 地理は得意中の得意なので……」
ユミヨがハツラツと両手を握る。
(攻略本で、レベル上げに使えるって見たから。覚えていただけなんだけどね)
高原の先を見つめたユミヨが不安げな面持ちになる。
(帯同する私も安全が保障されているわけではない。でもここは乗り越えないと)
***
そびえたつ長太い幹の列はさながら防壁の様だった。巨木の群れ、その威容を見上げた勇者パーティはひたすらに圧倒されている。
「こりゃたまげた。こいつら儂より年寄りに違いないぞい」
「俺らの侵入を全面拒否してるようだな。記者さん、本当に入って大丈夫なのかい?」
ヴァグロンに訊かれたユミヨも、見上げた姿勢のまま唖然としている。
「何その態度? ここは知っているんじゃなかったの」
「いえ、実際に来るのは初めてで……」
半ば呆れかえるミレニに対し、ユミヨが間延びした口調で答える。
(そろそろ現地民のおじさんが説明役として現れるはずだけど、まだかしら?)
「ごめんなさいねぇ。待ち人はこないわよ」
唐突な台詞が頭上から聞こえ、一同に緊張が走る。声の主の足元は低空に浮遊していた。
「貴様、何者じゃ?」
杖を構えたヨタナンが大声で|誰何《すいか》する。緊張をはらんだ面々が武器を構える。
「私の名はビリーディオ、単なる傍観者よ。勇者対魔王の対決、その顛末のね」
外見男のピエロはそう答え、空中で回転しつつ地面に降り立つ。
(こんな奴知らない。ゲームには出てこなかったはず……)
意表を突かれたユミヨが眉根を寄せる。
(元々の案内人はどこなの? 姿が見当たらない)
ユミヨが周囲を見回すが、誰も現れる気配がない。その代わりに、背後の大岩の陰から血だまりが流れ出る。案内人らしき男は人知れず息絶えていたのだ。
***
長身のピエロは目元が銀仮面で覆われ、鼻と口元は露出している。黄色と青を基調としたカラフルな衣装だが、筋肉の盛り上がりが対峙する者に圧を与える。
弛緩ムードを唐突に炎が切り裂く。ヨタナンの杖から放たれた魔炎がピエロを襲う。対するピエロが人差し指から水鉄砲を放ち、炎を相殺する。
「幻滅したわ。高齢者のくせに人を見かけで判断するなんて」
綽々と述べると、バク宙したピエロが距離をとる。
「その能力も加味してじゃ。いくら何でも怪しすぎじゃろう」
周囲の仲間たちが、一様に武器を構えてピエロを包囲する。
「私の見解を述べさせてもらうわ」
ピエロがレカーディオを指さすと、不意を突かれた彼がビクつく。
「あんたら勇者を甘やかしすぎ。魔王の元に連れて行けばなんとでもなる、そう思っているの?」
不意を突かれた周囲の面々の怒気が和らぐ。少なからず図星を突かれたのだ。
「余計なお世話だ、貴様に言われる筋合いはない!」
ヴァグロンが槍斧で斬りつけるが、ピエロはヒラリと宙返りして回避する。そのままレカーディオの背後に回り込んだ。
「私がこいつを育成してあげる。ちょっと荒っぽいやり方でね」
にやついたピエロがマントをふわりと広げると、包み込まれたレカーディオが姿を消す。
「レカーディオさん!」
間近にいたユミヨが、叫ぶと同時にマントの中に飛び込んだ。そして、レカーディオの後を追い姿を消してしまう。
「何たることじゃ……」
ヨタナンが帽子越しに頭を抱え、当のピエロも呆気にとられる。
「クハハッ! 随分面白い事態になったこと」
にやつく口元と連動するように、仮面に描かれた双眸を弓なりに細める。
「レカーディオはどこ! あんた、いったい何が目的なの?」
ミレニが悲痛な面持ちで問い詰める。対するピエロは人差し指を立てて左右に振る。
「勇者もあの子もまだ死んでいない。その代わり、この森の中で試練を受けることになる」
ピエロの体が宙に浮き、その高度が徐々に上がっていく。
「レカーディオが生き残ったらまた会いましょう。その時を楽しみにしているわ」
仮面上の目がウインクすると、再度マントが広がる。見知らぬ道化は、その中に吸い込まれるように忽然と姿を消した。
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