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一人で桜の咲くトンネルのように美しい並木道を歩く。
「今年は満開の桜が見れるから、絶対に見に来い。」
なんて言っていたあいつが懐かしい。
本当は一人で家にいるつもりだったけど、なんだか呼ばれているような気がして、少しだけ気合を入れてお洒落をしてここに来た。
顔を伏せるようにして携帯を見ながら歩く人ばかりで、ぶつかりはしないもののこの景色を見ないなんてもったいないな…なんて勝手に思った。
不意に強い風が吹いて、桜が宙を舞った。
それを見ていたら、切に愉快に笑っているように見えたから、誰も見ないなら。とスキップをする。
鼻歌交じりでスキップしていると、今までの嫌な事なんてどうでもよくなってきた。
くるくると舞いながら踊る姿は、傍から見れば異様な光景だろう。
暫く踊っていれば、人々から浴びる冷たい視線が刺さる。
それでも、なんだか楽しかった。あいつと一緒に踊っているみたいで。
踊り疲れて、近くのベンチに腰掛ける。
今日はあいつの葬式の日だった。
もちろん喪服で出席した。でも、なんだかいつもと違った。
今日は自分が自分じゃないみたいに体が軽かった。まるで他人になってしまったのかと思えるほど、背筋を伸ばして堂々と道を歩く自分がいた。
でも、それも長くは続かなかったみたいだ。
まるで夢の中にいるようなふわふわとした実感のない形だけの影が通り過ぎて行く。
「会いたいよ。じゃぱぱ…。」
いつの間にか沈みかけた夕日が、最後の別れだ。と告げているみたいに輝いていた。
「泣かないで」
聴こえた音はあいつの声か、風の音か。俺には分からなかった。