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深冬芽以
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「……ぁ、……あ、あぁぁぁぁぁぁ!!」
私の喉から放たれたのは、言葉ではない。
それは10年間、暗い海底に沈めていた怨嗟と
父という名の怪物への明確な「拒絶」を凝縮した高周波の衝撃波だった。
父が差し出した集音デバイスが、耐えきれずキィィィンと悲鳴を上げ、目の前で火花を散らして粉砕される。
「なっ……何をした、栞!」
父の余裕のあった顔が初めて驚愕に歪む。
私の声は、父が設計した「鍵」としての周波数を遥かに超え
この理科準備室に隠されていたすべての電子機器
サーバー、そして父が10年かけて築き上げた「遺産」のバックアップデータを、物理的に焼き切っていく。
「パパ……!パパ、危ないわ!」
跪いていた愛華が、崩れ落ちる棚から父を守るように飛び出した。
彼女の目には、正気を失った崇拝の光だけが宿っている。
「栞……お前、自分の価値を自分で壊すつもりか!その声が失われれば、お前はただの、喉の潰れた欠陥品に戻るんだぞ!」
父の怒声。
けれど、私にはもう届かない。
私はあなたのコレクションじゃない。
私は、九条刑事の方を見た。
九条は銃を構えたまま、私の「叫び」が引き起こす破壊の嵐の中、静かに頷いた。
彼は、私にすべてを終わらせる覚悟があることを悟ったのだ。
「……終わりだ、渡邉。あんたの帝国は、あんたが道具だと思っていた娘の手で、今、灰になった」
九条が引き金に指をかける。
その時、愛華が狂ったように笑い出し、隠し持っていたメスを手に私へ躍りかかってきた。
「栞……あんたさえ、あんたさえいなければ、私はパパの一番になれたのに!!」
「よせ、愛華!」
九条の銃声が、狭い準備室に轟いた。
放たれた弾丸は、愛華の肩を貫き、彼女は床に激しく転倒する。
それでもなお、彼女は血に染まった手で父の靴を掴み、「パパ、逃げて……」と掠れた声で縋り付いた。
父は、自分に縋る愛華を一瞥もせず
ただ破壊されたデバイスと、もはや音を奏でることのない私の喉を、忌々しそうに見つめていた。
「……失敗作か。ならば、もう用はない」
父が懐から小型の起爆スイッチを取り出した。
この廃校そのものを、すべての証拠と共に消し去るつもりだ。
だが、そのスイッチが押されるよりも早く、準備室のモニターが青白く発光した。
結衣のアイコン。
パンドラの最後の残滓が、父のシステムに侵入していた。
【Final Mission:創造主の処刑】
栞。最後の一押しは、私たちが。
廃校の放送スピーカーから、10年前に父が九条に裏金を渡した時の音声
美波にポットを渡した時の指示
そして彼が関わったすべての「掃除」の記録が、街中のネットワークへと一斉に再送信され始めた。
「……な…なんだと……!?」
父の顔が絶望に染まる。
彼が一番恐れていたこと。
それは「支配」を失うことではなく、自分が築いた「闇」が、自分自身の制御を離れて白日の下に晒されることだった。