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目が覚めると、天井が視界に広がっていた。目を閉じたり開いたりするたびに、まぶたが鈍い痛みを伴う。体を動かそうとするが、全身が鉛のように重い。
「大丈夫ですか?」
聞き慣れない声が耳元で響く。焦点を合わせると、老人の顔があった。白い髭が立派で、深いしわが顔に刻まれている。
「ここは…?」
声を出そうとすると、喉がひどく乾いていた。なんとかその言葉を絞り出すと、老人は穏やかに頷いた。
「落ち着いて聞いてください。ここは病院です。」
「病院…?」
記憶が断片的によみがえる。森の中での戦い、鬼の爪、そして激痛。それ以降は何も覚えていない。
「あなたは瀕死の状態で運び込まれてきました。」老人は静かに語り始めた。「応急処置が間に合いましたが、傷は深かった。」
「…誰が…俺を?」
その問いに老人は少しだけ困ったような表情を浮かべた後、椅子に腰掛けた。
「それについては私も詳しくはわかりません。ただ、ここに運び込んだ者は名乗らずに去りました。」
誰かが僕を助けた?そんなことがあるのか?思い当たる顔を頭の中で探すが、般若以外に関わりを持つ者は思いつかない。
「身体の状態はどうなっている…?」
不安と疑念が入り混じる中で質問すると、老人は優しく微笑んだ。
「傷はほぼ塞がりました。ただし、完全に回復するまでには時間がかかります。少なくともあと数週間は絶対安静が必要です。」
「数週間…か。」
苛立ちを隠せないが、この状況で無理をしても仕方がない。
「ところで、あなたは何者ですか?」老人が突然問いかけてきた。
「俺は…」
言葉が詰まる。能力者狩りとして活動していたことを話すわけにはいかない。
「ただの通りすがりの人間だ。」とりあえず、そう答えた。
老人はその答えを聞いても特に驚きもせず、穏やかな目で僕を見つめていた。
「そうですか。それなら、早く元気になられるといいですね。」
「…世話になる。」
静けさが部屋に漂う。だが、胸の奥には疑念と不安が芽生えていた。ここはどこにあるのか?僕を運び込んだのは誰なのか?
そして、般若と鬼は今どこにいるのか──。
その疑問が解ける前に、老人は静かに立ち上がり、部屋を後にした。僕はその背中を見送りながら、再び重い瞼を閉じた。