(た、たん、短期間で2回も顎クイとやらを経験しちゃったんだけど!?)
真衣香の表情の動きひとつを見逃さないと言わんばかりに、坪井の視線は真衣香を捕らえ続ける。
(え、これ、どう、どうした、ら!? この整いすぎてる顔面ドアップから逃れるにはどうしたら……!)
ぐるぐると頭の中で考え続けるも、もちろんわからない。
このままでは心臓がもたないと少し先の己の未来を予想して、真衣香はギュッと目を閉じた。
なんせ坪井は本当に、テレビや映画の中でしか通用しないであろう動作や行動がサマになりすぎてしまうのだから。
使いこなせるのって、イケメンの特権。
受け止めるのは真衣香が萎縮してしまう部類の美女たちの特権。
そう思っていたのに、自分はなんとイレギュラーなのか。
あの合コンの夜から夢でもみ続けているようだ。
「おーい、立花。 お前それ何? キスでもされたい? まあ俺はいつでもどんだけでもしたいけどさ〜」
「ち、違う、ごめんなさい!」
慌てて目をあけ、坪井を見る。
相変わらず近すぎる。
果たしてこの距離に慣れる日はやってくるのだろうか?
「あーあ、お前って恥ずかしがってる顔も可愛いよね」
「……え?」
「でも、可愛くってもダメ。 俺、お前相手だと結構しつこいみたい、残念だね。 ほら言いな」
坪井の表情はいつのまにか柔らさを消していて、伝えられそうにもない。
答えるまでは逃さないよと聞こえてきそうに目を細めて真衣香を見つめている。
「言わないなら、お前がもっと恥ずかしくなることしようか、会社だけど」
「ま、待って! 坪井くん……!」
驚きと恥ずかしさのあまり仰反ろうとするも、真衣香の身体はぴくりとも動かないどころか、逆に坪井の身体へと更に密着させられる。
(無理、無理無理、難易度高い……! 何で坪井くんは平気そうな顔でこんなことできるの!? 追いつけない!!)
観念して、真衣香は白状する為に唇を少し開けて空気を吸った。
そして小さな声で一言だけ呟く。
「ネット……」
「は? ネット?」
真衣香が言うと、坪井は顎に添えていた手を離し首を傾げた。
「癖なの、私友達って少ないしイコール情報も少ないしで。 わからないこととか悩むことがあったらとりあえず調べちゃうの……!」
「ああ、うん。 俺もパソコンの使い方とかド忘れしたら調べるよ」
ポカン、と気の抜けたような顔で坪井が言う。
真衣香は「そうじゃなくて」と声を重ねた。
「恋愛相談とかそうゆうのよく見るの、だってわからないし。 24歳にもなって彼氏がいたことないしそうゆう書き込みとかも探したりとか、ほんと恥ずかしいんだけど」
「へえ、そんなのあるんだ」
不思議そうに呟いた坪井に、そりゃ坪井くんには縁遠いだろうけど。 と内心愚痴って真衣香は続けた。
「それでね、その……ネット検索してみたら、そうゆう女同士のいざこざを彼氏に伝えるなんて男女ともに嫌がられるとか、そうゆうの……質問のアンサーで見て」
真衣香の言葉にじっと聞き入っていた様子の坪井が目をパチパチさせた後。
「あーー、はいはい」
納得したように頷く。
少しだけ距離をあけ腕を組み、考えるそぶりを見せた後、深く背もたれにも垂れ込んだ。
その姿を恐る恐る追いながら、真衣香は続けて言った。
「小野原さんに嫌われてる気がするとか言いにくくて、坪井くんの仕事をする上で一番近くにいる人でしょ。 一番うざいって思われる感じなのかなとか、その……思って」
「はは、女同士のいざこざとかそんなレベルじゃなかったじゃん、てか仕事巻き込んでるし小野原さん」
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