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耐え内
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阿炎快空
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#ダークファンタジー
阿炎快空
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今思えば、そこは冬香の遺体が発見されたトイレであったはずだ。四階の東端のトイレ。このトイレは、一部のクラスの生徒しか使わないことで有名である。そもそも、四階に教室があるのは全学年でも四クラスのみで、しかもそのうち三クラスは西端のトイレの方が近いというちょっと奇妙な構造になっているのだから。
話し合いをしよう、という綾乃の言葉を信じてトイレに向かった楓。
誰にも邪魔されないように、と洗面所の入口に綾乃が鍵をかけた時も――不安ではあったが、まだ憤りの方が勝っていた。
自分は、人に胸を張れないような行為など何もしていない。
ただ藤沢先生に絵を習って、一生懸命写生会の絵を描いたら運よく認めて貰っただけだ。そう、全てが自分の実力だなんて楓も思っていない。きっとたまたま好みだったとか、認めてくれた人がいたからだとか、そういう理由もあるのだろうとは思っている。
でも。
だからって、自分が選ばれるために――恥ずべき行為に手を染めるなど断じてあり得ない。
それは、銀行頭取・蓮見円蔵の孫娘としてあってはならないことであるとも思っている。お金がなくて、どうしても手を染めてしまった人。強引に、避けようのない状況でやらざるをえなかった人とは違うのだ。自己顕示欲を満たすためだけに、体を売るなどありえない。ましてやそれが、相手の名誉をも貶めるとあれば尚更である。
これは楓の個人的考えだが。
女子高校生が援助交際のような行為をしたとして。それが大人に強要されたものでないのなら――それは、大人だけが責任を問われるべきではないと思うのだ。ものの分別もつかないほど幼いわけではない。高校生にもなって、常識や法律がまったくわからないは通らない。法律上、逮捕される年齢というのはつまりそういうことではなかろうか。
女子供が自分の利益のために愚かな行為に手を染めたなら(ものすごく幼いならば別として)、それは売った少女側も大人と同様の罰を受けて然るべきである。しかし、現実は買った大人ばかりが糾弾されるのが実情だ。――裏を返せばそれは、相手のことを少しでも心配する気持ちがあるのなら、売る側も自重しなければいけないということに他ならないのではないか。
――だから、私は……先生達の名誉を穢すようなことなんて絶対しない。それを、わかってもらわなきゃ。
綾乃を相手に、楓は背筋をぴんと伸ばして立つ。とにかくわかって貰おう、嫌がらせをやめてもらおう。そんな気持ちでいっぱいだった。
『……まず、誤解を与えたことは謝罪します。野間綾乃さん』
『誤解?』
『はい。どこかでそういう噂が流れてしまったのかもしれませんが……私は、先生方に枕営業などした事実はありません。もちろん、私の絵が選ばれたのは、運もあってのことだとは思っています。私に、そこまでの実力があるなどうぬぼれるつもりはありませんし、その運があったかなかったか、だけで結果が変わったんだろうなと思っていますよ』
それは心からの本心だった。
たまたま先生達の好みだったかどうか。それ次第では、綾乃の絵が選ばれることだって十分あったはずだ。
『まずは、それを信じて頂けませんか?私のことを信じられないなら、先生方を信じてください。皆さんは、女子生徒が枕営業をしようとしたところで、それを安易に買おうとするほど愚かな人達ではないはずです。私はこの学校が大好きですし、先生方のことも心から尊敬しています。あの方々が、そのような汚らわしい行為に手を出すことはありません。どうか、それを認めて頂けませんか?』
綾乃はそんな楓をまじまじと見つめて――やがて、深々とため息をついたのだった。
『呆れた。……あたしと二人で話すっていうから、きちんと頭下げる用意があるのかと思ったら。まさか、まだ自分の罪を認める気がないなんてね』
『で、ですから私は……!』
『あんたの絵が選ばれたことだけを言ってんじゃないのよ。その後も含めてあたしは怒ってるの。あんた、あたしの絵が選ばれないように働きかけたんでしょ!』
『え、え?』
一体、何の話をしているかさっぱりわからない。彼女はギン!と音がしそうなほど強く楓を睨みつけてきた。覚悟を決めてこの場に立ったはずの楓が一瞬怯んでしまうほど。
『あんたの絵がなくなれば、あたしが代わりに選ばれるのが当然と思ってたわ!それなのに、先生が校内選抜に出すと言い出したのは別の男子の絵だった……!誰がどう見ても、あたしより圧倒的に劣る絵!あんたよりもさらに劣る絵を!マジであり得ない。どう見ても、あたしの絵が圧倒的に上手かったでしょうが!!』
確かに。
楓の後任として選ばれることになった男子の絵は、綾乃と比べるとけして上手いものではなかった。もっと言うと、楓の絵が破られる現場を見ていた彼は、流石に受け取れないと最初校内選考突破を辞退しようとしていたのである。それを後押ししたのは楓だった。確かに少年の絵はきちんと絵を学んだものの作品ではなかったかもしれない。しかし、鮮やかな桜の緑と公園の遊具を描いたそれは粗削りながらも非常に目を見張るものだった。選考突破に相応しい作品だから、胸を張って欲しいとそう告げたのでる。
綾乃が、それに不満を覚える気持ちもわからないではない。
しかしそうなった原因は、そもそも綾乃自身にあるのではないか。いくら絵の技術があろうと、他人の絵を破り捨てた人間を校内選考に残すことなど常識的に考えてできるはずがない。そんな、子供でもわかることがなぜ、十七歳にもなって綾乃にわからないのだろうか。
『そ、それは!野間さんが私の絵を破ったからでしょう!?』
思わず、楓も声を張り上げる。
『いくら技術があっても、能力があっても……!人の作品を壊して台無しにする人を、代わりに選ぶことなどできるはずがありません。生徒も、他の先生たちも認めるわけにはいきません。それを認めたら最後、他人を傷つけて踏みつけてでも上に行けばいいという、そんな非道を認めることになる。それは、学校教育として正しい姿ではないはずです!』
『何優等生みたいな解答してんの?違うでしょ?あんたが、あたしが憎いから選ばないようにってあいつらに働きかけたんだって、素直にそう認めなさいよ!』
『恨みがないわけではありませんが、私からは先生に何も言ってません!』
『嘘つくなボケ!また体でたらしこんで懐柔したんでしょ、先生たちを!』
『だから!最初からそのような行為などないと言っているではないですか!!』
どうしてわかってくれないのだろう。
怒りを通り越して、段々悲しくなってくる。そもそもやっていないことを捏造されているだけで残念なのに、絵を破られた事件の後にも同じことをしていたなんて思われるのは、あまりにも残念すぎる。それも、まるで自分が綾乃を攻撃して、貶めるために援助交際に及んだみたいなことを。
自分は、そんなに綾乃に信用されていないのだろうか。
確かに、彼女と話したことはそう多くはない。それでもクラス替え直後は、ここまで険悪な状況ではなかったはずなのに。絵を破ったことやそのあとの嫌がらせを謝らないばかりか、さらに冤罪を吹っ掛けるような言い方をして。
『どうしてそんなことばかり言うんです!?絵を破られただけでも悲しかったのに、先生達と汚らわしい行為をしたなんて言いふらして……!どうして?そんなに私のことが嫌いなんですか?私がそういうことをしていた方が、貴女に都合がいいんですか!?』
自分で叫んだところで、納得できてしまった。
彼女にとっては、楓が枕営業をしていた方がいいのだ。自分の実力不足で落とされたと認めずに済むから。卑怯な手で貶められた被害者だと信じていられるから。――己がやった行為全てを、正当化できるから。
確かに、リレーで揉めた時といい、他のトラブルといい、少々面倒な性格の人なんだなとは感じていた。でも、まさかここまで己の正義を妄信できるなんて。そのために、平気で人の名誉を貶めることができるだなんて。
『都合がいいんじゃなくて、事実よ。そうでもなきゃ、あたしがあんたみたいなゴミに負けるはずがないんだから!』
一切、話が通じない。永遠に平行線でしかない。絶望した気持ちで彼女を見た、次の瞬間だった。
『がっ!?』
いきなり、理不尽な暴力が楓を襲った。彼女がいきなり、楓の股間を蹴り上げてきのである。
『い、いいいいっ!い、痛いっ……な、何、するんですか!』
かなりの力だった。思わずスカートの上から股間を抑えて蹲ってしまう。あまり知られていないが、女性であっても金的攻撃は有効なのだ。性器を攻撃されて激痛を感じないはずがない。もちろん、男性よりは若干マシなのかもしれないが、それでも蹲って動けなくなるくらいのダメージは負うものである。
『あははははは!クラスのアイドルとかちやほやされてた女が、マンコ抑えて呻いてるとかすっごく惨めでいいじゃない!最高!』
『!?』
それで話は終わらなかった。首を押さえつけられたと思うと、いきなり頬にひやりとしたものが押し当てられたのである。
『え、え……!?』
それは、木工用のカッターナイフだった。それも細いタイプではなく、段ボールも切れるような大型のタイプである。その銀色の歯が今、楓の頬にぴったりと押し付けられているのだ。
『このほっぺを切り裂いて、口裂け女にしてあげましょうか。さぞかしみじめで滑稽でしょうね』
『や、やめ……っ』
『大人しくしてたらあたしもそこまではしないわ。あんたみたいなゴミ女のせいで逮捕されるなんてまっぴらごめんだし。でも、あんたが暴れたり大声出したらその瞬間にずぶり……よ?わかるわね?』
なんで、どうして。恐怖心で、奥歯がカチカチと鳴る。まさか、彼女が刃物まで持ち出してくるとは思っていなかった。しかも、これは立派な脅迫ではないか。
震える楓の上に馬乗りになると、綾乃は楓の制服のシャツに刃をあてる。次の瞬間、びりりりりり、と音を立てて、制服のシャツが切り裂かれていったのだった。
『あ、ああああ……!』
あっという間に襟もシャツも切り裂かれて真っ二つに。ピンク色のブラジャーとキャミソールが露わになってしまう。綾乃はそのキャミソールも切り裂くと、乱暴に楓の体から引き抜いてしまった。
さらにはブラジャーも、胸の谷間のあたりで寸断され、あっという間にワイヤー入りの布切れと化してしまう。楓は綾乃の前で、温泉くらいでしか人前に晒したことのない乳房を晒す羽目になったのだった。
『このデカパイも切り裂いたら面白そうねー。饅頭でも作ってみるう?』
『や、やめて、助けて、助けてくださいっ……!』
『何被害者面してんの?あんたが自分の非を認めないから悪いんでしょうが。すぐに土下座して全部認めて謝ったら、あたしの怒りだって収まったかもしれないのに』
暴虐は続く。彼女のカッターはさらに、楓のスカートも切り裂き始めたのだから。
『あんたが全裸になるまでやるわよ。そんでもって証明させてあげるわ。あんたがオナニー大好きゴミ女だってことをね』
コメント
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うわっ……第11話、めちゃくちゃ重かった……。楓が自分の正義を信じて真っ直ぐ向き合おうとしてるのに、綾乃の歪み方がえぐすぎて読んでて胸が苦しくなったわ。特に「♡♡♡抑えて呻いてる」とか「口裂け女にしてあげましょうか」のセリフ、リアルに怖かった。楓の震えがこっちにも伝わってくる。ここまで追い詰めるのは絶対おかしいし、楓には早く助けが入ってほしい……次話が待ち遠しいけど覚悟して読むわ🔥