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ルイは、町のはずれにある古い通り――「月かげ通り」を通るのが好きだった。昼でもうす暗く、石畳はひんやりしている。けれど、だれもいないはずのその通りで、いつも不思議な気配を感じるのだ。
ある秋の夕方、ルイが通りに入ると、風のないのに葉っぱがふわりと舞い上がった。つぎの瞬間、石畳がかすかに光り、足もとに銀色の模様が浮かびあがった。
「え……道が光ってる?」
光の模様はゆっくりと動き出し、まるで「ついておいで」と言うように先へ進んでいく。ルイは胸がどきどきしたけれど、好奇心が勝った。
通りの奥へ進むと、小さな古い本屋が現れた。昨日まではなかったはずだ。扉には青い月のマークが描かれている。
キィ、と扉を開けると、中は思ったよりずっと広く、天井近くまで積まれた本棚がつづいていた。カウンターの奥から、やわらかな声がした。
「いらっしゃい。あなたを待っていましたよ、ルイくん」
現れたのは、銀色の髪の老人。ルイは驚いて声も出ない。
「ここはね、“まだ書かれていない物語”が眠る場所なのです」
老人が手をひらくと、空中に一冊の白い本がふわっと浮かんだ。本には文字がひとつもない。
「この本は、あなたが選んだ“未来の物語”です。さあ、決めるのです。勇気の物語にしますか? 友情の物語? それとも──」
ルイは、胸の奥でずっと温めていた夢を思い出した。
「ぼくは……世界中を旅する物語がいい!」
すると白い本がまばゆい光を放ち、一気に文字で満たされていく。ページが風のようにめくれ、ひとつの冒険が形になった。
「その物語は、あなたが歩き出したときから始まりますよ」
気づけば、ルイは月かげ通りの入り口に立っていた。本屋も光る模様も消えている。けれどルイの手には、一冊の白い本がしっかり握られていた。
ページをそっと開くと、最初の