コユキの珍しい心からの声を聞いた善悪和尚は、ハッとした表情を顔面に張り付けて答えるのであった。
「あっ! ああ、そうでござったぁー、あの頃は、いいや我輩とてもリアル世代では無かったのでござる…… あの頃まだ、おっさん属性では無く乙女、少女属性であったコユキ殿が知らぬのも無理は無い事でござったぁー! これは拙僧が間違えていたのでござる…… んでは、改めて、静岡県民にとって、いいや昭和に生を受けた男性達に取って、ザン〇ット3が如何に特別で重要だったのかをご説明するのでござるよ! 良い? まずね、神(じん)一族って宇宙から地球に逃れて来た一族の末裔なのでござるよ、神、神江、神北、彼らは地球人の振りをして暮らしていたのでござる、ここまで良い? それでね――――」
…………………………
「んでね、ザンボ・エ〇スのコックピットから出た勝平(かっぺい)にここまで責め続けて居た皆が感謝の言葉を口にしながら駆け寄って来るのでござるよ! 焼津の浜にね…… どう? 今、どんな気分?」
エグエグ泣き続けて居るコユキは何の言葉も返せない様である。
アスタロトも同様に双眸(そうぼう)を涙でしとどに濡らせながら声にならない声を発している。
バアルが目尻の涙を拭いながら頑張って声を発した。
「んで、兄様! その悲しすぎる話と、その玩具、超合金だっけ? その偶像を大切に扱う因果関係は? 只の玩具じゃ無いんだろうね? 妾、感動したけど、その玩具とはどうしても結びつかないんだけどぉ? どう? どうなのぉ?」
善悪にしては珍しく、怒鳴るように言いながら超合金ロボの背中を皆に見せながら叫んだ。
「こ、これを御覧(ごろう)じろぉ! 恐れ多くも畏(かしこ)くも、あの日本アニメ界の至宝っ! 藤〇良二さんが、箱絵を除くアニメ業界ではほぼほぼキャリアファーストであるザ〇ボット3にメカデザインを手がけた際に気紛れでサインしてくれた稀有(けう)な逸品、それこそがこの超合金なのであるぅっ! かの藤原〇二さんでござるよ? 伏し拝むが良いっ! 愚民共ぉっ! しかも、しかもあの頃にしか使っていなかった、かの『平山』名義のサインであるぞぉっ! 恐れ慄(おのの)けぇっ! 平伏すのでぇっ、ござるぅっ! リサイクルショップで見つけた時は心臓止まるかと思ったのでござるよ…… 横に並んだザンボ〇ト3が一万円前後だったけどこれ、十二万もしたのも頷けたのでござる、迷わず即買いしたのでござるよ!」
コユキは急速に泣き止んで善悪を見つめ、残念そうに呟いたのであった。
「ねえ、それって偽サインなんじゃないの? キャリアファーストでその時しか使っていなかった名前で…… その後ヒットメーカーになった絵師さんが、初めてのデザイン作の本体、しかも拘(こだわ)っていた合体ロボの体に文字書くとか…… やらないと思うわよ…… 流石に」
コユキの言葉に目を剥いて固まった善悪は、今剥いた目のまま白黒させている。
「あー吹木とか結城とかだったらしないだろうなぁ、我もコユキに賛成だー」
「本当だよね、外箱や色紙だったら分かるけど、本体に直書きは無いよね、無い!」
アスタロトとバアルの追随で完全に騙されていた事を理解したのだろう、善悪はガックリと頭を垂れた後、そっぽを向いて続けたのである。
「いいの! そういう理屈じゃないのっ! 僕チンが本物だと思えば本物なのっ! 全くトーシローはこれでござるから! すっかり興ざめでござるよ、あーつまらない、しらけたー、でござるっ!」
「なはは、アンタが良いならそれで良いんじゃないの、んで、自称本物のロボットを何で持って来たのよ? 今届いた荷物、結城さんが送って来たフィギュアで顕現させるんでしょう、アルテミスちゃんって? なに? あの娘気が変わってロボットにすんの? 変わってるわねー」
「いや、良く分からないのでござるがアヴァドンを通して言って来たのでござるよー、顕現した後、三体に分離できるフィギュアを用意して欲しいとか何とか、取り敢えず〇ンボット3なら、〇ンバード、〇ンブル、〇ンベースに分離可能でござるから準備したのでござるよ」
「ふーん、何だろうね?」
「ね? 因みにキン〇・ビアルも候補だったのでござるよ」
「? ああ、そうなの」
何だビアルって、コユキがハテナを浮かべた瞬間、本堂の外から声を掛けてくる人物がいた。
ご近所の奥さんだろうか? エプロンを着けた初老の女性である。
「お取込み中すみません、和尚様、少し宜しいでしょうか?」
「ん、音成(オトナリ)さんではござらぬかぁ、どうしたのでござる? 改まっちゃってぇー?」
ほう、ペスの飼い主さんなのか、そうかそうか。
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