この時期は
すぐに日が沈み、夜が来る
「キャハハっ、今度はあっち行こーっ!」
子供達の笑い声が赤く染まった耳に伝わる
白い布を被った子、大きな帽子と箒を持った子、全身が包帯まみれの子
楽しそうにみんながジャックオーランタンの形をした小さめの入れ物を手にしていた
「……かわいい」
もうそんな時期か、なんて思いながら街を見渡せば其処ら中がハロウィン仕様に彩られている
少し懐かしい気持ちになりながらたまには、とコンビニに寄ってお菓子をいくつかと序でに夕飯を買った
コンビニから出れば外の寒さに体が震える
急いで帰ろうともう履き慣れたヒールで帰路を歩いた
鍵を取り出して家に入ると、どっと今日の疲れが襲ってくる
半年が経ち、やっと慣れてきた仕事も今は繁忙期
というか、なんだったら年中繁忙期みたいなものなのだがここ最近はやけに忙しい
なのに給料は下の下
少しでも節約をやめれば、一気に生活は崩れてしまう程
お陰で半年も一人暮らしをしているのに一向に家具が揃わない
ヒールを脱ぎ、リビングでソファーにスーツを脱ぎ捨てた
シャワー室に向かう途中、髪を乱雑に解いた所為か鏡に映る自分はまるで山姥のように見えた
一瞬で目を逸らして軽くシャワーを浴びた後、買ってきたお弁当を温めて無事に平らげる
ふいに、外から楽しそうな声が聞こえた
それに微笑み、お菓子を取ろうとしたそのとき
コンコン、っと軽やかなノックが聞こえる
咄嗟に返事をして、玄関に駆けつけてドアを開ける
「……こんばんはぁ、おねぇさん」
「トリックオアトリートお菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ」
そこには角を生やした真っ赤な髪をした可愛らしい男の子が特徴的なオッドアイの瞳を伏せ目がちに八重歯を見せて不敵な笑みを浮かべながら立っていた
背中には悪魔の翼が付いており、ゆらゆらと尻尾が本物のように揺れている
ボーダー柄のシャツに赤く大きなリボンとハイソックス、グラデーションになっていて蜘蛛の巣とコウモリが程よく描かれたパーカーは彼の可愛さを引き立たせていた
こんなに可愛らしい見た目なのに耳には3つもピアスが開けられておりキラキラと輝いている
「わぁ、可愛い衣装だね」
「衣装…か、んーまぁそんなところかなぁ」
そういって全体を見えるようにくるっと回ってくれた男の子はにししっと笑ってみせた
「おねぇさん、何かお菓子は持ってなぁい?」
こてん、とまるで計算され尽くしたかのように美しい首を傾げた表情はまるで天使のように見えた
男の子は綺麗な瞳がキラリと輝き、不思議な笑みを浮かべる
「あっ、えっと…お菓子なら、こんなのくらいしか無いけど…良かったらどうぞ」
そうだったと思い出し、ついさっき食べようとしていたチョコレートのお菓子を渡す
すると男の子はパァッと顔を明るくさせて破顔させた
「わぁっありがとう!おねぇさん優しいね。俺嬉しい」
えへへ、と悪魔とは思えないほどの可愛らしい笑顔で一気に仕事の疲れが吹っ飛んでいく
「そう言ってもらえると私も嬉しいな。まだ少しあるけど、持っていく?」
奮発して買った少量のお菓子
私なんかよりも、この子に食べてもらいたいと言う気持ちが湧いてくる
男の子は私をじっと見るとまた、少し不思議な笑顔を見せた
「んー?大丈夫だよ。残りはおねぇさんがたべてよ。俺、友達の所為で今から色んなところ回らなきゃいけないから」
「…そう、なんだ」
「うん、そう。じゃあねおねぇさん」
「ハッピーハロウィン」
そう言って男の子は手を振ると駆け出していった
「あっ、ハッピー……ハロウィン…」
言い返そうと、慌てて去って行った方を見るが、もうそこに彼の姿はなかった
「……足が速い子、なんだなぁ」
不思議な子
15歳、くらいに見えたが時々見せるあの表情がずっと大人びていて私よりも遥かに年上に感じる
部屋に戻ろうと、踵を返して振り返る
「言い忘れてたんだけど、おねぇさん、近いうちにいい縁があると思うよ」
男の子が去って行った反対側に、その男の子が立っていて私は心臓が止まった
かと思えば「じゃあね」と笑って今度は消えるではないか
私はポカーンと口と目を見開いたまま、しばらくその場から動く事ができなかった
満月の月が街を照らす
そんな月明かりなんて無意味かのように、街中は未だ輝いている
「…よかったのか?あんな容易く」
屋根に座り、街並みを眺めているとふわりと目の前に現れたさとみくんの藍色の瞳が俺を見つめる
「…優しくされたら、優しさで返す。俺はそう習ったんですけど?」
頬杖をつく俺にさとみくんは微かに目を見開くと、ははっとイケメンな顔をくしゃりとして笑った
「確かにそうだったな」
「お菓子、今どれくらい配った?」
「もう配り終わったよ」
罰として受けた5000人の子供へのお菓子配り
「俺を持ってすればこんなのへっちゃらだね」
自慢げにお菓子の入っていた箱を見せびらかせばさとみくんはマジかよ…と呟く
「負けてらんねぇ…まだ500人も残ってる」
「もう負けてんだよ。手伝ってあげようか?」
そう不敵な笑みを浮かべれば、さとみはムッとした表情をして首を振った
「他のみんなはちゃんとやってるかな」
「さっきちょっと見てきたけどころんは逆に悪戯してたな」
「あいつが元凶なのに??」
今回あいつがやらかしたりしなければこんなことにはならなかったのに当の本人は呑気に遊んでいるだと?
「ちょっと殴ってくる」
すくっと立ち上がり、飛ぼうとした時ふと名前を呼ばれた
「気になってたんだけど、いい縁ってなんだよ」
「さぁそれは分からないよ。その時あの人が思ったり感じたいい事が縁となって現れるんだよ」
「…ふーん、そっか。悪い事じゃ無いといいな」
「そんなの起きないよ(笑)いい縁なのに」
「じゃあちょっところん殴ってくるね」
ばいばーいと手を振り、ころんの元へと飛び立つ
「…俺にとってのだよ」
その呟きが聞こえることはなかった
「片想いってつらいなぁさっちゃん?」
突然音も立てずにコウモリの群れから姿を現したジェルにドキンとあるはずな無い心臓が跳ねる
「『…俺にとってのだよ』…いったいどういう意味でしょうねぇさとみくん?」
その反対で今度は黄色い光に包まれながら現れたるぅとが顎に手を当てて不気味な笑みを浮かべている
「なぁ?気になるなぁ?」
「えぇ」
ニヤニヤニヤニヤといやらしい程に口角を上げる2人に俺は顔を真っ赤にさせた
「うるっせぇな!!あっちいけ!」
「さっちゃんは照れると語彙力なるなるんよなぁ」
愉快愉快、とジェルは大きな口を開けて笑う
「ちなみに本当にどう言う意味なんですか?」と聞いてくるるぅとの顔はもう確信犯でわかってて聞いてきている
これ以上ないほどに赤くなった顔に、もうどうにでもなれと思い絶対に言うなよと釘を刺した
「……だから、……そいつ、が莉犬に惚れていい縁が莉犬になったらどうしようって意味だよ」
ここまで過去一で早く言えた自信がある
チラッと2人を見ればこれまでにない程ににぃっと笑っている
「そうかぁそうかぁ〜嫉妬やんな?嫉妬やんなぁ??」
「可愛いですねぇさとみくん(笑)普段あんなにかっこつ…っこいいのに(笑)」
「まぁ、応援してますよ」
「ーーっ!、俺まだ終わってねぇからもう行く! 」
迫り来る2人に俺はとうとう耐えきれず、バッと羽を動かして空を飛んだ
「あーあ、行っちゃいました。からかいすぎましたかね」
「さっちゃんは、ほんまかわえぇなぁ」
にししと笑うジェルくんに僕も微笑む
「早くくっ付けばいいのに」
「いやぁ、だってあの莉犬やで?まだ先やろ」
「莉犬もさとみくんのこと好きですよ」
「「え?」」
「え?」
タイミング良く姿を現した頭にたんこぶを作った涙目のころちゃんとジェルくんは目を丸くした
コメント
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珍しくイベントに間に合った気がします… 次の投稿は♡200〜