低く掠れた、男性の声がした。聞き覚えのある響き。
私は、反射的に振り返る。嫌な予感しかしなかった。
そこにいたのは…店長。私のお店の…代田店長だった。
――ドクン、ドクン――
心臓が鼓動を早めていく。頭の中が真っ白で思考がついていかない。
嫌な汗が背中を伝う。
(え…な、何で…?だってこんな時間なのに…いや、ていうかここ…隣街なのに…そうじゃなくて…!!もっと重要なことがあるでしょ…)
――店長に…職場の人に援交が…バレた…?――
腕を組んだまま、身動きがとれなくなる。
「み、美里ちゃん?この人は?まさか、他の援交相手かな?」
「っ…!!」
雅彦、と呼んだ男性の言葉でようやく我に返る。しかし、もう遅かった。言い逃れができないことを言われてしまった。
「美里…?え…それに、援交…って…」
店長は、もう訳が分からない、という風に私とおじさんを見比べながら挙動不審になっている。
そんな店長を見たら、冷静になれてきた。
(…はあ。仕方ない。この男とはこれでお別れか。)
私は、男の腕を振り払い、その場に崩れ落ちた。
「ち、違うんです…このおじさんにいきなり話しかけられて…無理矢理こんなところに連れてこられて…恐かったぁー…」
震える声で話す。もちろん、演技だ。
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