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横穴は入口の半分くらいの大きさだ。先に背が高いユフィが腰をかがめて横穴に入る。
ユフィより少し低い俺も、腰を曲げて穴に入った。小さいのは入り口だけで、少し進むと腰を曲げなくても歩ける高さになる。
進むにつれて人の声が大きくなってきた。話し声と言うよりも、これは…苦しんでるような…うめき声か?
足を止めてユフィに囁く。
「ユフィ、苦しんでる人がいる」
「そうみたいですね。毒でも浴びたのでしょうか」
「村人か、それとも警備をしていた兵か。…まさかゼノとジルも…!」
「行ってみましょう」
足を早めて先を急ぐ。しばらく進むと、ユフィが照らした灯りの先に、たくさんの人影が見えた。
慌ててかけ出そうとするのをユフィに止められる。
「お待ちを。敵かもしれません。俺が確かめます」
「…わかった」
俺を後ろにさがらせてユフィが人影に近づいていく。人の顔がはっきりとわかる距離まで近づいたその時、俺は思わず声を上げた。
「ゼノっ、ジルも!こんな所にいたのかっ」
「…リアム…様?」
ざっと見た感じ十数人はいるだろうか。青や黒の軍服姿から、王都と伯父上の城の騎士達だとわかる。彼らの一番手前側に、ゼノとジルが石壁にもたれて座っていた。
ゼノが壁に手をついてフラフラと立ち上がる。だがこちらに足を二三歩踏み出した途端に、よろけて倒れそうになる。
「ゼノ!大丈夫か?何があった?毒を浴びたのか?」
「リアム様…自らお越しいただくとは…申しわけありません…」
「ここにいる者達は皆、伯父上や王都の騎士達だな?」
「…そうです。昨日の早朝…俺とジルが来た時にここに案内され…そのまま彼らと共に、ここまで追い詰められたのです」
「皆が動けない原因はなんだ?」
「リアム様の推察通り…霧状の、たぶん毒を浴びました…。これだけの人数がいながら…防ぐこともできず…情けない…」
「不意打ちでは仕方あるまい。それで誰にやられた?村人か?」
「村人?」
「村長の言動が怪しかったのです」
ユフィが手のひらの光で周囲を照らしながら、俺の隣に並ぶ。
「君は…?」
「ユフィと申します。今回、ラシェット様にリアム様の同行を命じられました」
「そうか…。面倒をかけてすまない」
「いえ。ところであなたがたをここへ追い詰め、毒を浴びせたのは村長ではないのですか?」
「違う…。俺達をこの穴におびき寄せ…動けなくしたのは……」
ゼノが言葉に詰まる。言うのをためらっているようだ。
「ゼノ、全て話せ。俺に隠しごとは無しだ」
「…はい。俺達をこのような状態にしたのは……イヴァル帝国の者です」
「なんだとっ」
俺の脳裏に、イヴァル帝国の王城で会った時の、黒いドレス姿のフィーの姿が浮かんだ。
しかしフィーは最近城に戻ったばかりだ。あずかり知らぬことだろう。フィーだけでなく、ラズールやトラビスなど、王城にいる者は関わっていない可能性がある。
この村と国境を挟んで隣接する土地の領主が、独断でしたことかもしれない。
俺は軍服の上着の内ポケットに入れていた小さな袋を取り出すと、中身をゼノとジルの手のひらに乗せた。
「それを飲め。万能の毒消しだ。ただイヴァルの者が扱う毒に効くかどうかはわからんが…」
「ありがとうございます…」
「恐れ入ります…」
ゼノとジルが小さく頭を下げると、木の実のような赤い粒を口に入れて飲み込んだ。
ユフィが二人に順番に容器を渡して水を飲ませているのを横目に、俺は地面に座ったり横たわっている騎士達を見る。
王都からの青い軍服の者が五人、伯父上の城からの黒い軍服の兵も五人、ゼノとジルも入れて十二人いる。全員剣の腕も立ち魔法も使える。毒に対する耐性もあるはずだ。なのにこうも簡単に動けなくされてしまうとは……。相手は一体何者だ?
俺は王城で見かけたことのある一人に近寄り、彼の前にしゃがんだ。
「おまえ、軍隊長の直属の部下の…イルバだよな?」
「…はっ、お久しぶりでございます…。このような情けない姿をお見せしてしまい…誠に申しわけございませんっ…」
「いい。おまえほどの猛者でもやられるのかと驚いただけだ。だがさすがだな。他の者よりは毒の効きが弱そうだ。動けるか?」
「はい、リアム様のご命令とあらば、動けなくとも動きます!」
「動けないのにどうやって動くんだよ。あと一粒残っているからこれを飲め。少しでも多くの動ける者が必要だ」
「…ありがとうございます」
イルバにも赤い粒を渡す。
イルバはすぐに口に含んで飲み込むと、いきなり立ち上がった。
「おおっ、なんと素晴らしい薬だ!視界がグルグルと回って吐き気を催していたのに、もう治りましたっ」
「そんなわけあるか。その薬に即効性はないんだぞ。ほら見ろ、ゼノもジルもまだ苦しそうにしてい…ああ?なんだおまえら」
振り向いた先で、ゼノとジルが腕を伸ばしたり腰をひねったりしている。真っ青だった顔色も元に戻っている。
うそだろ…。万能の毒消しとはいえ、効くのに四半刻はかかるぞ。こいつらの身体はどうなっているんだ?この薬はそんなに効くのか?それならばフィーに持たせてやればよかった。使者としてフィーに会いに行った時に、渡せばよかった。母も姉もいなくなってフィーが消される心配は無くなったが、本当にそうだろうか。俺もそうだが、王族は常に誰かに狙われる存在なのだ。フィーは毒には慣れていると話していたが、そんなものに慣れてほしくない。俺はフィーに痛みや苦しみを感じてほしくないんだ。