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6月の夢路
黒い染みは、静かに床に吸い込まれていった。
床の中央に残ったのは、読めない名前の影と、わずかにかすれた“輪郭”。
それはもう誰のものでもなく、それでも確かに「ここにいた」という証だけが、確かにそこにあった。
その中心から、やがて静かに音もなく、“扉”が立ち上がる。
音を立てることもなく、地面を裂くこともなく、ただ空間の中に最初から存在していたように現れた。
扉には、名前がなかった。
金属でも木でもない、触れても感触がないような質感。
けれど、全員が理解していた。
この扉の向こうに、すべての答えがある。
あの子のことも、ここがどこなのかも、なぜ自分たちがこの旅をしているのかも――
「これは、“その子が最後に残してくれた道”だ」
スマイルがつぶやく。
その声は、どこか光のない場所に差し込む微かな月明かりのようだった。
broooockが、扉の前に立つ。
もう何も言葉にしなかった。
けれど、彼の背中は、6人を代表するようにまっすぐだった。
この扉をくぐると、自分たちは“もう戻れない”ということを、きっと誰よりも分かっていた。
「ここまで来たんだ。開けよう」
nakamuが小さくうなずき、足音もなく隣に立った。
シャークんも、きんときも、きりやんも、ひとりずつ静かに並ぶ。
誰も迷っていなかった。
すべてが始まった場所へ、今向かうのだという確信だけが、そこにはあった。
スマイルが、最後に手を伸ばす。
扉に触れた瞬間、指先がすっと空気に沈む。
まるで水の中に触れたかのような、抵抗のない感触。
それを合図に、扉が音もなく開いた。
――眩しさ。
それまでずっと、くすんだ空間の中を進んできた6人の視界に、突如差し込む“光”があった。
白く、あたたかく、静かな光。
光の向こうに、何かが“待っていた”。
誰かではない。
何か、もっと大きな“意味”のようなもの。
「ここが終わりじゃなくて、“始まり”なのかも」
きりやんの言葉に、誰かが小さく笑った。
緊張ではない。諦めでもない。
ただ、静かで、あたたかい笑みだった。
6人は、扉の向こうへと一歩ずつ進んでいく。
影は戻ってこなかった。
名前も、音も、形も、まだすべてが戻ったわけではない。
けれど、自分たちは今“思い出す旅”の最終地点に立っているのだと、みんな分かっていた。
扉の先で、何が待っているのか。
それを知る準備は、もうできていた。
――6人の足音が、やがて静かに途絶えた。
つづく
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