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私は知っている。
こんな時間にもいつか終わりが来る。
いつか別れを告げる時が来る。
変化したり壊れたり終わったりを繰り返す。
私は無理やり抜け出してきた子供としてまたあそこに戻らないといけない。
…戻りたくない。
芦兆さんは私のこの現実を知った時、なんて言うだろう。
「じゃあ戻った方がいい」、「親が心配している」、そんな言葉が怖くて中々言い出せない。
もしそんなこと言われてしまったら…私はまた逃げ出したくなってしまうのかもしれない。
ここから逃げたら…私はどこで生きればいい?
そんなことを考えてしまう。
「芦兆、今日は早く帰ってくるぜ、お前の二十歳の誕生日を祝わないとな、なんかチューハイ飲んでみるか?」言売
「えぇ…なんか苦くて美味しくないイメージだしなぁ、コーラでいい気がするけど」芦兆
「そう言わずによぉ、弱いの買ってくるからさぁ」言売
「そんなに大事なことなのか…?」芦兆
「俺もある程度は飲むけど、やっぱり家族で飲み比べとかしてみたいなーって思ったりするんだよ」言売
「そういうもんなのか…飲んだことないし何が起こるか分からないから小さいの一本だけな」芦兆
「よっしゃ!」言売
今朝の朝食。
今日は芦兆さんの誕生日、今夜に誕生日パーティが行われるらしい。
私も何かあげられるものがあれば喜んでプレゼントしたいがあいにくそのようものは持ち合わせていない。
「お嬢ちゃんどした?今日嫌なもん入ってた?そういえば嫌いな食べ物聞いてなかったよな」言売
「──あっ!いや、そんなことない!少し考え事…モグモグ」月二夜
プレゼント以前に、私が芦兆さんにしてあげられることはなんなんだろう。
芦兆さんの望むものを私は満たすことが出来るだろうか。
芦兆さんは好きなだけここにいろとは言ってくれた。
それはそれで安心している。
でも…他者からの安心材料だけだと私の心はまだ不安だと言っている。
自分でも作れる安心材料もないと落ち着けない。
要するに自分でもわかるめんどくさいやつだ。
芦兆さんは誕生日だからってだらけることはなくいつものように畑作業をこなす。
私はいつものように居間の窓からそれを眺めている。
この前の反省を活かしいつも休憩する木の下には水の入ったペットボトルを何本か置いてある。
芦兆さんにとって芦兆さんの誕生日も何気ない一日。
でも私にとっては…少し寂しい気持ちになってしまう。
少なくとも半数は誕生日おめでとうとか言ったり、いつもは食べなさそうな少し高い食べ物を食べたり、いつもは買わない欲しいもの買ってあげたり…そんな特別な日にしたいと思ってしまう…はず。
それがあるから落ち着けない。
日付けが変わる前に何かしてあげたい、何かプレゼントしたい、そういう焦りが私の胸をざわつかせる。
(好きなだけここにいろ)
──それでも私は…たかが居候…。
そんな他人がしてあげられることなんて…。
私の悪い癖だ。
考えることが難しくなると、結局なにをしても無駄だと決めつけて楽になろうとする。
実際結果がそうであっても後悔することには変わりないというのに。
そういう時期がある。
考えれば考える程、芦兆さんの背中が遠くなっていく気がした。
それでも心はお前にそれを止める権利はないと私に言い放つ。
嫌な言葉を振り払うようにテレビをつける、台所で水を飲む、お手洗いに行く、冷蔵庫にある漬物をつまみ食いする、あらゆる方法で気を紛らわす。
そうしてるうちにあっという間に夕方になる。
芦兆さんは既に畑作業から帰ってきて着替えを済ませていた。
しかし体に染み付いた汗や本人の匂いが居間に広がり私の鼻腔を突き刺す。
「芦兆さんはずっと外にいて疲れないの?」月二夜
「家にいても暇なだけだし、言売にだけ荷負わせちゃ悪いと思ってなぁ、それに自分の子を育ててるみたいな感じでなんか楽しいぞ」芦兆
やっぱり芦兆さんは私にとってすごい人、なんて大袈裟なのかな。
私には…いや、大半の人間が持ち得ないものを平然と持っている。
趣味だとか義務感だとかその辺のバランスを保つのってすごく難しいはずなのに…過去のトラウマとか色々つらいこともあるはずなのに…脈の力だって他者に無理矢理振るったり使したりしないのに…。
「…芦兆さんって欲しいものとかない?すぐには手に入らなくても」月二人
「欲しいもの…か、言われると思い浮かばないんだよなぁ、強いて言うなら平穏な一年かな、俺には…それが…」芦兆
「…そう…なんだ」月二夜
嘘。
私には、わかる。
自由でいたい、のびのび生きたい、そう思う私は自我を抑え込もうとすることに敏感なんだ。
でも、芦兆さんは自分に被せた仮面を自分から外そうとはしない。
「あの…さ」月二夜
「なんだ?」芦兆
「野菜だけじゃなくて…その、本物の子も…育ててみない…?」月二夜
さっきの嫌な気持ちの連鎖から抜け出したいという気持ちはあった、ただそれが強く発言に現れてしまった。
もはや淫乱女みたいなプロポーズをしてしまっている。
「え、あ…いや…その…」芦兆
さらっと拒否したり嫌がる素振りはせず、動揺して目線を泳がせ、頬を赤らめた。
そんな様子を見た私の下腹部に髪の毛程の細い針が無数に下腹部を突き刺すような鋭い疼きが襲う。
自分で剥がさないのなら、誰かが「剥がしてもいいよ…むしろ剥がさなきゃ…」と囁いてあげる。
いつか心から嫌な気持ちは消え失せ、目の前の強く小さな男性が満更でもなく動揺する姿を見て興奮している。
「そういえば…月二夜っていくつなんだよ、歳」芦兆
「今年で17…です」月二夜
「まぁ…そこら辺だろうなとはおもってたけど…んー…子供作るのだってそれなりに心とか物理的な準備も必要だし…ましてや学生のうちから経験するのは危ない一面も多いとこあると思うし…」芦兆
「ふふっ…」月二夜
「何笑ってんだよ」芦兆
「『今すぐじゃなくても』、ですよ…♡」月二夜
私は自分の人差し指を自分と芦兆さんの唇に優しく押し当てた。
「うっ…」芦兆
芦兆さんの誕生日に私が楽しんでどうする。
「ただいまーっと」言売
「おう、おかえり」芦兆
「ふぅ、芦兆の20歳の誕生日だから調子乗っていっぱい買ってきちゃったぜ、重かったー」言売
「毎度おつかれさん、風呂沸かしてるから、俺の後入るか?」芦兆
「そうだな、ってその前にお嬢ちゃんは入らんのか?」言売
「私はほとんど動いてないし汗もかいてないからいいかな」月二夜
「じゃあ、行ってくるわ」芦兆
芦兆さんが風呂に入ってる間、言売さんは誕生日会の準備をしていた。
そして二人はいつの間にか風呂を済ませた。
そして芦兆さんと私がテーブルにつくと言売さんが次々とご馳走を持ってきた。
炊き込みの栗ご飯、骨付きチキン、フライドポテト、コンソメスープ…なんか思ってた誕生日のメニューと違う。
「ええ…美味そうだけどこんなん食べきれるかな…」芦兆
「今回はお嬢ちゃんもいるしな、それに食べきれなかったら残りは明日食べればいいのさっ」言売
「それもそっか」芦兆
「それに酒も合う!ということで、チューハイも一緒に飲んでみな!お嬢ちゃんはコーラね」言売
「俺食べてる間に水分補給するのあんま好きじゃないんだけど…」芦兆
「そういえばそうだった、まいっか、じゃあ食べよーぜ、お嬢ちゃんも気にせず沢山食べてくれよっ」言売
「うん、ありがとう」月二夜
「「「いただきまーす」」」芦兆・言売・月二夜
コメント
1件
うわああ第13話…!!!😭💕 芦兆さんの20歳の誕生日、月二夜ちゃんのグルグルした気持ちがすごく伝わってきて胸が締め付けられたよ…「たかが居候」って自分で決めつけるとこ、めっちゃ切なかった🥺 でも「本物の子も育ててみない?」からの「今すぐじゃなくても♡」は完全にキュン死案件!!😇💘 誕生日なのに月二夜ちゃんが一番ドキドキしちゃってるの可愛すぎる… 言売さんの賑やかしも尊いし、日常の温かさが沁みる回だった〜🍀✨