重苦しそうな空気の流れる書斎で、主がしばらくの沈黙の後、そっと口を開けた。
「主炎、よくここまで調べたな」
空虚を見つめた主の顔は暗かった。
「俺の持ち得る全てを駆使して調べ上げたんだ。そのぐらい、当たり前だろ?」
主の顔を見ずに、窓の外を眺めながらできるだけいつも通りの話し方を、仕草をするように心がける。
調べなかった方が良かっただろうか。
津炎は勿論、ナチスもきっと知られたくない事だ。それに、この現実を主に知らせて、主は本当に知れて良かったと思うのだろうか。
そんな考えるだけ無駄な不安だけが脳裏を過ぎる。
窓の外には季節外れの粉雪がシンシンと静かに降っている。
俺の不安なんて他所に、主は「これからどうする?」そう、俺の顔をしっかり見つめて話しかける。
少し重いような気もする口を開いて声を出す。
「客観的に言うなら…」
そこで一度言葉を切り、大きく息を吸い込む。
「ドイツ第二帝国の化身、ナチス・ドイツ。そのドールである津炎の異常とも見られる言動は、戦争の傷跡なんかじゃなく、その上に立つ人間が原因なのが判明した」
手元に有る複製した報告書から目線をずらし、主と顔を合わせる。
「ここからは個人的な感情が入るが……、俺と津炎が初めて出会った時。独ソ不可侵条約を結んだ日、あの時既に気が付かねばならなかった事だ。俺はそれを後悔している」
思わず握る拳に力が入り、爪が掌に食い込む。
この痛みは、きっと津炎が過ごしてきた今までの痛みより断然軽いものだ。
「俺らができる事は、心身のケアと、今後のサポート程度だ。それ以上もそれ以下も無い」
自分の口から漏れ出て紡がれた言葉は、静かに目を閉じ、酷く申し訳なさそうな表情をしている主の耳に届いた。
「そうか……。そうするか…」
主は言葉の一つ一つを噛み締めるように目を閉じて静かに頷きながら声を漏らした。
ふと目をやった窓の外。
もう、粉雪は止んだ。空は青く晴れ、太陽が雪を溶かしている。