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クラウスは、この上なく衝撃を受けた。
エーファが……、あの英雄アグネスの末裔……?
こんな近くにいたとは。
エーファは苦笑した。
「信じられないかもしれませんが」
「……いや、驚きはしたが、俺は君の偉大な魔法をこの目で見た。確かに君は、英雄アグネスの末裔だ」
それに、エーファが英雄アグネスの末裔なら、全てのことに合点がいくのだ。
「君は才能を持ちながらも、なぜ書店の時に使わなかったのか。それは、周りにひた隠しにしていたからだろう」
彼女くらい強い魔法使いなら、あの転倒も自分でなんとかできたはずだ。
しかしそうしなかったのは、エーファのあまりに強力すぎる魔法を悪人に利用されないようにするためだ。
エーファの魔法は国民全員の命を同時に救える可能性を持っているが、それと同様に国を一瞬で破滅まで追い込む可能性も持っている。
彼女の実力の限界がまだわかっていないから正確な予測はできないが。
エーファは大きく目を見開き、困ったように笑う。
「その通りです。ただ、秘密にすることを決めたのは千年も前に生きておられたアグネス様ですし、両親や私は隠さずにひとのために役立てたいと思っています」
クラウスは相槌を打った。
彼女らしい意思だ。
「それから、英雄アグネスの日記についてだが。俺たちは日記は見つかっていないと言われていた。それは、他でもない英雄アグネス自身が隠していたからだろう」
エーファは先程、王族の証であることを示すこの腕輪が、英雄アグネスが開発したものだと漏らしていた。
これほどすごいものを開発しているのだから、他にも兵器と成りうるような代物も開発してるに違いないのだ。
エーファは再び目を見開き、含みがある笑みを浮かべた。
「ご名答」
クラウスは小さく息を吐く。
「……しかし、正体を俺に明かして良かったのか?ましてや俺は王族だ。英雄アグネスとの約束だったのだろう?」
「ええ、大丈夫です。両親から、やむを得ない時もあるからと言われておりますので」
「……そうか」
晴れやかで清々しい笑顔を浮かべるエーファに、クラウスも小さく笑んだ。
バルトロメウスからお呼びがかかったのは、それから二週間後のことだった。
エーファはノックをし、入室の許可が聞こえたことを確認すると、応接室に入った。
そこでは、バルトロメウスとクラウスがソファに腰掛けていた。
ふたりは穏やかに笑む。
「待っていたよ、エーファ」
「国王陛下と王太子殿下におかれましては、ご機嫌麗しく」
エーファが一礼すると、バルトロメウスは笑みを深めた。
「座りなさい」
「では、失礼します」
バルトロメウスに促され、エーファはソファに腰掛けた。
ソファがケーキのスポンジのようにふわふわとしており、エーファはびっくりした。
家のソファとは大違いだ。
「エーファ。改めて、クラウスを助けてくれてありがとう」
バルトロメウスの声は温かかった。
「お褒めに預かり、光栄です」
エーファは微笑む。
次はクラウスが口を開いた。
「ちなみに、あの者たちは全員極刑になった」
極刑……!
驚いた様子のエーファに、バルトロメウスは不敵に笑む。
「不敬罪と王太子殺害未遂の罪があるのだから、理由としては十分だろう?」
エーファが固まっていると、バルトロメウスは再度穏やかな笑みを浮かべる。
「それで、君に礼がしたいんだが、何か望みはないか?何でもいいんだ」
エーファは瞠目した。
少し考えてみる。
金も宝石もいらない。
望み……、望み……。
そこでエーファは思いついた。
「……では、魔法でひとの役に立てるような仕事をさせてください」
エーファは今まで、自分のこの力を使わないのはもったいないと感じてきた。
国にある魔法を使う仕事は、全て国王直々の任命がないとなれない。
何かしらの功績がないとなれないのだ。
バルトロメウスとクラウスは驚いたような顔で見合わせた。
そして、両者微笑んでエーファに視線を戻す。
「実は、クラウスとその話をしていたのだよ。エーファ、君に国仕魔法使いを任じたい。荷が重すぎるなら、もちろん無理にとは言わないが」
エーファは大きな目を見開いた。
国仕魔法使いとは、王家に雇われている、その名の通り国のために仕える魔法使いだ。
魔法を極めに極めた者しかなれない、魔法使いの至高。
英雄アグネスも任じられていた。
確か今の国仕魔法使いは、片手にも満たなかったはずだ。
国王直々に提案されるとは、こんな光栄なことはない。
しかし。
「……私は、自分の実力がそこまであるのかわかりません」
自分に才能があることは自覚していながらも エーファは自信がなかった。
両親以外の魔法使いと勝負したことがないからだ。
俯くエーファに、バルトロメウスは励ますように言う。
「エーファ。クラウスからの話を聞いている限り、君は国仕魔法使いにふさわしいひとだ。それ相応の実力がある。だから任せたいと思ったんだ。君の才能を、国民のために生かしてくれないか?」
エーファは顔を上げ、クラウスの顔を見た。
クラウスは口角を上げ、力強く頷く。
……自分の魔法を、ここまで認めてくれるひとがいる。
この上なくいい機会なのに、ここで断るのは、もったいないことではなかろうか。
エーファは心を決め、深く頭を下げた。
「……ありがとうございます。謹んでお受けいたします」
エーファの答えに、バルトロメウスもクラウスも満足気に頷いた。