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ハウドラント人は寿命が長く、他の多くのリージョンのおよそ10倍以上は生きる。ピアーニャも100歳は超えている。
見た目年齢については個人差があり、多くの人は15歳~25歳程度で一旦成長が緩やかになる。
「じゃあなんでピアーニャちゃんは、3歳で止まっちゃったの?」
「ピアーニャちゃんいうな。だいたいかーさまのせいだ」
純粋な目でピアーニャが触れられたくないと思っている質問をするのは、フロウレリカに住んでいる少女メレイズ。アリエッタの初めての同年代のお友達である。
メレイズは正真正銘の子供で、年齢は見た目どおりの8歳児。アリエッタより少しだけ身長が高い。
「ピアーニャちゃんのおかあさんも、それくらいで止まっちゃったの?」
「うむ。だいたい6さいくらいでとまって、400ねんほどかけて、いまのカンジになったらしい」
ピアーニャの過剰なまでの若作りは、ルミルテの家系だった。それにしてもピアーニャの成長遅緩は早すぎる……どころではない、ほぼ止まっている。お陰でどんなに強く、そして偉くなろうとも、その姿には威厳の欠片も無い。
「あ、知ってる! ピアーニャちゃんのおとうさんの事、ヘンタイさんって言うんでしょ!」
「ちっがああああう! っていうか、うれしそうにヒトのとーさまのコト、ヘンタイあつかいするなっ!」
父であるワッツの見た目は、普通に中年の男。かなり成長しても18歳程度にしか見えないルミルテとの組み合わせのせいで、あらぬ疑いがかけられた事もあった。だからなのか、今はあまり他のリージョンに出向いたりしない。
「ふーん? じゃあピアーニャちゃんはいつ成長するの?」
「……さぁ」
「………………えへへ、これからも可愛いままだね」
「いやあああああ!!」
「大丈夫だよ! お姉ちゃん達が遊んであげるからね!」
「やめろ! …ほかにだれかいるのか?」
「もちろんアリエッタちゃんだよ?」
「ひいぃぃぃっ!」
見た目は幼児、年齢は大人。何処へ行っても可愛がられ、その影響でピアーニャは何故か強さを求めた。単純に強ければ虚仮にされないと考えての行動。そしてそれは、同じく戦う立場にあるシーカー達や兵士達にのみ有効となった。実戦経験の無い一般人には、何が凄いのかイマイチ分からないのだ。
当然、普通のハウドラント人の子供であるメレイズにも、目の前の総長は可愛い存在にしか見えていない。
(たすけてくれ、かーさまっ!)
本物の子供からは確実に子供扱いされるピアーニャは、一緒にいるルミルテに視線で助けを求めた。
街へ同行…というより、娘と出かけたかっただけのルミルテは、ニコニコしながら幼女2人の様子を見ている。助けに入るつもりは毛頭無い。
「あっ、ピアーニャちゃん! あのお店どうかな! お菓子あるよ!」
「それはかまわんのだが……」
「今度アリエッタちゃんが来た時、ちゃんと2人で案内出来るようになっておかなきゃね!」
「いや、わちは……」
「メレイズちゃん偉いねー。3人で美味しいの食べたら、きっとアリエッタちゃんも喜ぶわよね」
「うん!」
「いやだああああ!」
悲鳴をまき散らしながら、店の中へと消えていった。
ピアーニャは本気で拒絶したいのだが、生身では本物の3歳児並みに非力。しかも性根は優しいので、子供を傷つけるような行動も決してしない。そういう所が、人々に慕われる所以でもある。
その結果、アリエッタによって色々されてしまうのだが。
そして今も、メレイズによって甘やかされるのだった。
「ピアーニャちゃんの分は切ってあげるね」
「ジュース届かないでしょ? はいどうぞ」
「おっと危ないよ。椅子高いでしょ。ほら掴まって」
アリエッタの時と大体同じ目に合っていた。救いは、言葉が通じるお陰で、言う事を聞けば過剰にベッタリされないという所か。意思疎通が難しいと、当たり前のように抱っこされてしまうのだ。
「うふふ、ピアーニャ可愛いわぁ」
(いーからたすけろよ、かーさま!)
「あ、おぶってあげよっか?」
「いらん! いやちょっとまて! のせるなああああ!」
……意思疎通出来ても、あまり扱いは変わらないようだ。見た目は大事である。
店を出て、ピアーニャを背中に乗せたまま散歩中。ピアーニャの文句は、背中からでも受け付けられていない。
「えーっと、ピアーニャちゃんのおかあさん」
「おばちゃんって呼んで?」
「えっ」
メレイズは密かに、ルミルテをどう呼ぶか迷っていた。無難に呼んだつもりだったが、ルミルテが笑顔で呼び方を希望してしまった。
「お、おばちゃん?」
「はぁい♪」
見た目が成人したてという若作りだが、数百年生きているルミルテ。どうやら『おばちゃん』と呼ばれたいらしい。普段若く見られ過ぎているせいで、ピアーニャと同じく年増に見られたいのだろう。
そんな外見のせいで、心底『おばちゃん』と呼び難いと思っていたメレイズだが、本人から希望されてしまっては仕方がない。仕方がないのだが、やはり呼び難い。
「『お姉ちゃん』とかじゃ──」
「だーめ! おばちゃんがいいの!」
「ふえぇ……」
「かーさま……」
ピアーニャもメレイズの背中で呆れかえっている。
「もしかしてアリエッタにも?」
「もっちろん! アリエッタちゃんから、おばちゃんって呼ばれなかったら……ピアーニャの登録年齢を100歳ほど戻してやるんだから!」
「やめろ! ムダにケンリョクつかって、シャカイてきなのにイミのないイヤガラセするの!」
しかもただの八つ当たりである。
そんなよく分からない会話をしながら歩いていると、公園へとたどり着いた。
「あーあ、早くアリエッタちゃんに会いたいなー」
「そうね。今度はいつ連れてくるの?」
「うっ……」
メレイズとアリエッタは、公園で初めて出会った。その時に仲良くなり、そしてドルネフィラーに取り込まれた。
夢の中で助けられた時に、すっかりアリエッタの事が好きになったメレイズには、将来の夢が出来たのだった。
「ホントウにやるのか? まだシルキークレイももっていないだろう?」
「うん! 雲が無くても動けるようになって、雲を使うのも上手くなれば、絶対にシーカーになれるって、おとーさんに教えてもらった」
「シーカーのお仕事って、大変よ?」
「いいの! アリエッタちゃんに会いにいけるし、もしかしたら一緒にお仕事出来るかもしれないもん!」
それはアリエッタの仲間となる事。その為のシーカーへの就職。
アリエッタがシーカーになるかは分からないが、基本的にシーカーと一緒に行動している。アリエッタ自身の将来は分からないが、ファナリアのニーニルに住めば、会うのは容易くなるだろう。
今回公園に来た理由は、シーカーになる為の特訓をお願いされたからだ。
「それじゃあ今回は簡単に動きとか見るわね。まずは出来る事を知らないといけないから」
「はいっ」
「まずはゼンリョクで、まわりをはしってこい」
こうして公園を使った運動能力の診断が始まった。
わざわざ他の子供達がいる公園を選んだのには理由がある。
「あれー? メレイズ何してんだ?」
「わたしっ、シーカーになるって、決めたのっ!」
「シーカー!? すげー!」
「こらこらメレイズちゃん。今はちゃんと走ろうね」
「はいっ!」
シーカーに興味を持つ子供が、少しでも増えたらいいなという、ちょっとした打算である。
時々命がけにもなる仕事だが、小さい頃から育てておけば、安定した実力の持ち主となるだろう。もちろん本人の希望とやる気があればだが。
「おれもシーカーになる!」
「えっ、やめようよ…」
「なんでだよー、シーカーって強いんだぞ? 一緒に走ろうぜ」
「走ったらシーカーになっちゃうの?」
子供達がわらわらと集まってきて、シーカーになるかならないか悩み始める。
「ふふっ、一緒にやったら強くはなるけど、シーカーになるかどうかは後で決めてもいいのよ」
そこへルミルテが助言を始めた。運動し、特訓をしていけば、体力や筋力はつく。しかし、それをどう活かすかは、将来の本人次第。
ピアーニャも、子供達が強くなる手伝いをするのは問題無いが、危険を伴うシーカーには積極的に誘う事はしない。心象を良くしてから、シーカーになる方法を伝えて終わりなのだ。
結果、公園にいた子供達は走り始め、メレイズと一緒に汗を流すのだった。
「だーつかれたー」
「ふふっ、お疲れ様。これからも強くなりたかったら、時々街外れのお屋敷にいらっしゃい。私は基本暇だから、師匠になってあげるわ」
『はーい!』
シーカーになるかどうかはともかく、強さに憧れる子供は多い。ルミルテも、3歳児から成長しないせいで運動能力を鍛える事が出来ないピアーニャよりも、成長している子供達を鍛える方が楽しい様子。
こうして日中の暇つぶしを得た後は、お腹を空かせたメレイズを連れて、食事へ。ちなみにメレイズの親には、夜まで預かる事を伝えてある。
「おなかすいたよー」
運動が終わった後はヘトヘトだったが、子供は回復が早い。食事で元気を取り戻し、再びピアーニャを甘やかし始めた。
「なんでだよ……」
「それじゃあメレイズちゃん。明日から街外れにあるお屋敷に来るといいわ。シーカーになる為に強くなりましょ」
「やった!」
こうしてピアーニャにとって、不本意ながらものんびりとした1日が過ぎていった。メレイズが近い将来、対アリエッタ用の防壁になればいいなと考えながら。
ミューゼの家では、アリエッタがせっせと作業を進めている。
「アリエッタ、なにそれ?」
「ぴあーにゃ、すき、おりがみ!」
「そっかー、いっぱい作ったねぇ」
以前折り紙を渡した時、ピアーニャが喜んでくれたと認識しているアリエッタは、さらなるプレゼントを用意していた。
(ぴあーにゃ喜んでくれるかなー。またいっぱい可愛がってあげなきゃな!)
ピアーニャを見た目通りの年齢としか思っていないので、その可愛がり方はメレイズの比ではないのだ。
次は今まで以上に本気で可愛がろうと考えているアリエッタのいる家に来て、果たしてピアーニャは無事でいられるのだろうか……。