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下駄箱まで来て、ようやく掴まれていた腕を解放された。
「用事って?」
目線を斜め上に向けて、瑞基が答える。
「ゆらちゃんを家まで送って、雪江さんに冷たいコーヒー淹れてもらう用事~」
明らかに、咄嗟の思い付きだ。
口実に使われて、後でさっきの女子たちに絡まれたら面倒臭い。
「…送って欲しいとか、一言も言ってないけど」
出来れば一人で帰りたい。期末テストも近いことだし。
「いや送る。前だって、体育のとき見学で日陰で座ってただけの癖に貧血で倒れたことあったし。俺が女子と楽しく唄ってる時に、おまえが帰り途で行き倒れてたら、後味悪いだろー?それに」
内緒話をするように、声をひそめて言う。
「女子3人とか、騒がしくてキツイし」
更に由良の耳に顔を寄せて囁く。
「由良といるほうが楽」
女子だったら動悸が早まってしまいそうな微笑だったが、あいにく由良は違った。
「だから、近いっての」
ぐりぐりと握り拳を瑞基の頬にめり込ませて遠ざけたが、瑞基は笑顔のままだった。
「あ、どうもすみません、ご馳走さまです」
「いえいえ。由良を送って来てくれてありがとうね」
由良の保護者――母親ということになっている雪江が、二人分のアイスコーヒーをテーブルに置く。ソファーに深く座り直した瑞基の様子に、由良は低く呻いた。
「…見事に用事をやり遂げたな」
「やー、雪江さんのコーヒーは美味しいなー」
聞こえない振りで、グラスを手に瑞基は雪江の方に話しかける。
「にしても、由良って母親似だよな。二人とも色白で真っ黒な髪で、ほんと美人親子って感じ」
「………」
ちらりと由良は雪江に視線を送った。
目が合った。
ふふふ、と雪江は口もとに手をやって美しく微笑む。
「二人とも暑さに弱いからねー。夏でも日焼けしないのよ」
実際は、血が繋がっていないどころか、種族さえ別々なのだが、人ならざる者の共通した雰囲気 があるのだろう。
「じゃあ、わたしは買い物に行ってくるから。ごゆっくり」
「あ、母さん、外はまだ暑いから、気を付けて」
玄関のドアが閉まる音を聞いた後、瑞基は唐突に話題を変えた。
「夏休みさ、一緒に俺のばあちゃん家に遊びに行かない?こっちより、少しは涼しいし」
避暑避暑、と人差し指を立てて言う。
「静かで海が綺麗なとこだよ。由良もきっと気に入る」
頭の中にその風景を思い浮かべているのか、少し遠い目をする。
「…考えとく」
知っている。
切り立った崖と、無数の岩。
夏でも穏やかとは言い難い波。
遠くの方まで藍色に澄んだ海。
そこは、由良が生まれた場所でもあるのだから。
コメント
1件
第3話読了〜!瑞基くんの「由良といるほうが楽」ってさりげなくてめっちゃキュンした😭💕 あと、瑞基くんが由良ちゃんを送る理由に「女子3人は騒がしくてキツイ」って言うの、リアルで笑った(笑)由良ちゃんの過去とか種族の違う母親(?)雪江さんの存在も気になりすぎる〜!最後の「生まれた場所」ってのがエモすぎて続き待ってるよ🥺✨