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少年は地下牢を後にし、薄暗い廊下を歩いた。心の奥には、サリエルとのやり取りの余韻と、前線で戦わなければならない重さが残っている。
その様子を、影の端で誰かがじっと見つめていた。
大天使ミカリス。
白い羽を背に、表情をほとんど動かさず、少年とサリエルのやり取りを観察している。
「なるほど…面白い。」
その唇の端が微かに上がる。目の奥には、何かを企む光が宿っていた。
少年は気づかず、神殿の庭を抜け、セリスのもとへ向かう。
広場の片隅で、セリスは一人、手にした盾を握りしめ、足元をそわそわと見つめていた。前線に向かうのは初めてらしく、まだ心の整理がついていない様子だ。
「セリス、明日の準備はできた?」
少年は声をかける。
「う、うん…でも、ちょっと怖いな。」
セリスは小さく息を吐き、目を伏せる。
少年は微笑みながら、肩に軽く手を置いた。
「初めてだから、怖いのは当たり前だよ。私も最初はそうだった。」
「でも…僕、迷惑かけたくない。」
「大丈夫。怖いのはみんな同じだ。」
セリスは少し安心したように頷く。
「ありがとう…少し気が楽になったよ。」
少年は視線を前に向け、少しだけ苦笑した。
「でも、私たちの部隊は別だからな。お互い、頑張ろう。」
「うん、頑張ろう…!」
二人は握手を交わす代わりに、短く目を合わせて笑った。その笑顔には、友情と信頼が宿っていた。
少年は歩きながら、心の中で小さくつぶやく。
セリスは僕の悩みをだいたい知ってる。…だからこそ、無理に弱さを見せずに済む。
別れ際、少年は背中越しにもう一度セリスを見つめ、心の中で誓った。
どんなに辛くても、僕は前に進む。サリエルの言葉も、仲間のことも、忘れずに。
その瞬間、遠くの神殿の高窓から、ミカリスの視線が少年を捉えていた。
冷たい瞳の奥で、計算された微笑が光を帯びる。
「さて…次はどの手を使おうか。」
空には、薄い夕陽が差し込み、二人の友情と戦いの影を長く伸ばしていた。