突如として現れた謎の少女に、言葉を失うほど心を奪われた。
なぜこんなところにいるのか、何をしているのかなどいくつもの疑問が生まれたが、声に出せたのはこの4文字だけだった。
「……あなたは?」
そう問うと、明朗な声色で、
「わたしはこのオアシスの精。ここに来る旅人を見守っているの」
「…ずっとここにいるの?」
「そうよ」
どうしてだろうか、自分の心によくわからない感情が渦巻いていた。
見たことのあるようで、好感のある姿。
好きなのかもしれない、と思った。
「僕もしばらくここにいていいかな」
水や植物もあるし、快適そうだ。
「それはいけないわ」
期待を思いきり切り刻まれた気分だった。
「…え?」
「あなたたち旅人は、同じところに留まってはいけないの。少し休んだら、すぐに行って」
そんな……と落胆する。
「じゃあ、僕と一緒に来てよ。…ずっと君といたいんだ」
懇願するように言っても、少女はゆらゆらと首を振る。
「ダメよ」
「でも——」
言いかけたところで、遠くで聞こえる轟音に気づいた。
慌てて辺りを見回すと、夜空を切り裂くように頭上から降ってくる赤やオレンジの光。
それを見て、少女が叫んだ。
「あっ、火の粉だわ! あなた、逃げて!」
「え、どういうことっ」
瞬く間にその光は、地面に落ちてくる。
眩い閃光で、視界が遮られる。
そして、熱い。
何とかして彼女を守らなければ、と思った。彼女のもとに走り、小さな背中を抱く。
すぐ近くにも、その火の粉は降り注いだ。
「わたしのことはいいから、早く逃げて、危ない!」
頬に熱気を感じて見上げると、まさに真上に大きな火が落ちてこようかというところだった。
もうダメだ——。
そう思って目を瞑った。
しかし、迫ってきていた熱気がふと消えた。
恐る恐るまぶたを開けると、火の粉はない。すっかり止んだようだ。
そして、抱きしめていたはずの少女もいなくなっていた。
「え…ねえ、どこに行ったの?」
オアシスには自分の声だけがこだます。
彼女が消えた空間は、緑が多いはずなのに少し寂しい。もう少しだけ一緒にいたかった、とうつむく。
と、次の瞬間、草が生えていた足元が砂に変わった。
びっくりして顔を上げると、そこはオアシスではなくもとの砂漠になっていた。
また元通りか、と息をつく。いつまでたっても進めないし、戻れもしない。
が、ふと頭にひらめいたことがあった。
少し前に会った旅人は、「この旅に終わりなどはない、終わらせることはできるけど」と言っていた。
顔の似ていた彼は僕自身なのではないか。
だから、僕が終わりを願えば、終結が訪れるのではないか。
まぶたを閉じると、目の前が真っ暗になった。
「ん…」
視界に飛び込んできたのは、真っ白い天井。しかも見慣れたやつ。
起き上がると、そこはいつもの自室だった。掛けていた毛布は乱れている。
変な夢だったな、と思った。
なぜか砂漠にいて、オアシスを見つけたけれど謎の火の粉に襲われて……。
現実に戻ろうとスマホを見ると、今日は予定が入っていた。恋人と会う約束だ。
「お待たせ」
午前10時、いつもの駅前。
やはり先に来ている彼女に声を掛けたとき、足が止まった。
その目の前の彼女は、夢の中のオアシスで会った少女だった。背丈は小さかったものの、顔が一緒だ。
あのとき感じた既視感はこういうことだったんだ、と腑に落ちる。
「ねえ、どうしたの」
はっと我に返る。凛とした声もそのものだ。
「逢えてよかった」
何それ、と笑うあどけない表情に、夢の懐かしさと愛しさで心は溢れた。
終わり
コメント
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え、曲パロうますぎないですか⁉️ ポルノグラフィティ大好きなんです🥺 思わず歌っちゃいました笑