TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

突如として現れた謎の少女に、言葉を失うほど心を奪われた。

なぜこんなところにいるのか、何をしているのかなどいくつもの疑問が生まれたが、声に出せたのはこの4文字だけだった。

「……あなたは?」

そう問うと、明朗な声色で、

「わたしはこのオアシスの精。ここに来る旅人を見守っているの」

「…ずっとここにいるの?」

「そうよ」

どうしてだろうか、自分の心によくわからない感情が渦巻いていた。

見たことのあるようで、好感のある姿。

好きなのかもしれない、と思った。

「僕もしばらくここにいていいかな」

水や植物もあるし、快適そうだ。

「それはいけないわ」

期待を思いきり切り刻まれた気分だった。

「…え?」

「あなたたち旅人は、同じところに留まってはいけないの。少し休んだら、すぐに行って」

そんな……と落胆する。

「じゃあ、僕と一緒に来てよ。…ずっと君といたいんだ」

懇願するように言っても、少女はゆらゆらと首を振る。

「ダメよ」

「でも——」

言いかけたところで、遠くで聞こえる轟音に気づいた。

慌てて辺りを見回すと、夜空を切り裂くように頭上から降ってくる赤やオレンジの光。

それを見て、少女が叫んだ。

「あっ、火の粉だわ! あなた、逃げて!」

「え、どういうことっ」

瞬く間にその光は、地面に落ちてくる。

眩い閃光で、視界が遮られる。

そして、熱い。

何とかして彼女を守らなければ、と思った。彼女のもとに走り、小さな背中を抱く。

すぐ近くにも、その火の粉は降り注いだ。

「わたしのことはいいから、早く逃げて、危ない!」

頬に熱気を感じて見上げると、まさに真上に大きな火が落ちてこようかというところだった。

もうダメだ——。

そう思って目を瞑った。

しかし、迫ってきていた熱気がふと消えた。

恐る恐るまぶたを開けると、火の粉はない。すっかり止んだようだ。

そして、抱きしめていたはずの少女もいなくなっていた。

「え…ねえ、どこに行ったの?」

オアシスには自分の声だけがこだます。

彼女が消えた空間は、緑が多いはずなのに少し寂しい。もう少しだけ一緒にいたかった、とうつむく。

と、次の瞬間、草が生えていた足元が砂に変わった。

びっくりして顔を上げると、そこはオアシスではなくもとの砂漠になっていた。

また元通りか、と息をつく。いつまでたっても進めないし、戻れもしない。

が、ふと頭にひらめいたことがあった。

少し前に会った旅人は、「この旅に終わりなどはない、終わらせることはできるけど」と言っていた。

顔の似ていた彼は僕自身なのではないか。

だから、僕が終わりを願えば、終結が訪れるのではないか。

まぶたを閉じると、目の前が真っ暗になった。




「ん…」

視界に飛び込んできたのは、真っ白い天井。しかも見慣れたやつ。

起き上がると、そこはいつもの自室だった。掛けていた毛布は乱れている。

変な夢だったな、と思った。

なぜか砂漠にいて、オアシスを見つけたけれど謎の火の粉に襲われて……。

現実に戻ろうとスマホを見ると、今日は予定が入っていた。恋人と会う約束だ。



「お待たせ」

午前10時、いつもの駅前。

やはり先に来ている彼女に声を掛けたとき、足が止まった。

その目の前の彼女は、夢の中のオアシスで会った少女だった。背丈は小さかったものの、顔が一緒だ。

あのとき感じた既視感はこういうことだったんだ、と腑に落ちる。

「ねえ、どうしたの」

はっと我に返る。凛とした声もそのものだ。

「逢えてよかった」

何それ、と笑うあどけない表情に、夢の懐かしさと愛しさで心は溢れた。


終わり

loading

この作品はいかがでしたか?

66

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚