テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「今まで一人で国内海外問わず行ったし、涼ともあちこち行った。色んなものを見て『珍しい』と感動する事は多くあったし、危険な目にも相応に遭った。でも、一度痛い目を見たからって怯んでいるようじゃ、タフに生きれない。危険を承知の上で旅行を楽しめば、生きる事そのものを楽しめると思ったんだ」
ハンドルを握った尊さんの言葉を聞き、私は「なるほど……」と頷く。
「確かに、悪く言うつもりはありませんが、日本と比べると海外はもっと危険度は高いですよね。ツアー旅行でもスリとかに遭うだろうし、自由時間に怖い想いをした人もいるかもしれない。……でもその一回だけで『危険だから国内に留まっていよう』なんなら、『生まれた土地から出たくない』って思っていたら、世界は広がらないかもしれない」
「俺は根暗タイプだけど、行動力はあるほうだと思ってる。……だからかな。怜香相手に盤をひっくり返せたのも」
私は一月六日の事を思いだし、うんうんと頷く。
「……あの時、ちょっと『どうなっても構わない』って思ってませんでした?」
「思ってた」
尊さんは小さく噴き出す。
「怜香の悪事を暴いても、何も変わらない覚悟はしていた。……でも、会社から追い出されたら万々歳とは思っていたかな」
「私を篠宮ホールディングスに置いて?」
「違う会社で働いてても、付き合えただろ。……それに、あの場に朱里がいて社内での立場が悪くなったなら、俺が責任を持って斡旋してた」
「なるほど。……一応、保険は何重にもかけてたんですね」
車は国道二号線を走り、宮島口を目指している。
三十分ぐらいかけてそこに着くと、フェリーに乗って宮島に行けるらしく、一時間に四便出ているので、それほど待つ事なく行けそうだ。
「篠宮ホールディングスから追い出されたら、何の仕事したかったんですか?」
「……そうだな。怜香に縛り付けられる前は、アメリカに行って働きたいと思ってた。一月の革命が失敗して追い出されたなら、投資一本でもやっていけるし、ワーホリでオーストラリアとかも考えたかな」
「……お金持ってて、言葉も話せるなら世界中どこでも行けますね」
「……でも、あちこち行ったからこそ、日本が好きだという想いはある。何かと『海外はこういう制度がある。それに比べて日本は……』と言われるけど、この国ほど治安が良くて水も安心して飲める国はないからな。病院にかかっても保険が利いて、丁寧な対応をしてもらえるし、何だかんだで飯が美味い」
「それ大事!」
私が食いつくと、尊さんはクスクス笑う。
「私、知ってますよ。世界で一番、ミシュランの星付きのお店が一番多い都市は東京なんでしょ?」
「ん、そうそう。ちなみに三位が京都で、四位が大阪。覚えてる限りな」
「ちょっと誇らしい……」
「でも、アジア系の国の屋台も好きだけどな。安いし美味い」
「憧れる~!」
私は屋台飯を想像してうっとりしたあと、チラッと尊さんを見て笑う。
「あと、友達がいるから日本に留まりたいんでしょ? 尊さん、友達少ないから」
「コンニャロ」
彼がブスッとして言ったので、私はケタケタ笑う。
「……でも、私も友達少ないし、尊さんと関わっていなかったら、春日さんやエミリさんと友達になれなかったかも」
「巡り会いだよな」
「そう、巡り会い。そしてタイミング」
そこまで言って、私は肝心な事を思いだした。
「そういえば、厳島神社って潮の満ち引きで観光のしかたが変わるじゃないですか。これから行ったらどうなってるんだろう?」
「ああ、公式サイトに潮見表ってあって、今日の九時で潮位百七十三センチメートルって書いてあったな」
「それ……、どうなんです? よく分からない……」
「歩いて大鳥居まで行けるのは、一メートル以下らしい。十一時から十三時の間は一メートル以下になってたな」
「ふぅん……」
「逆に、潮位二百五十センチメートル以上だと、大鳥居が海の上に浮かんでるように見えるそうだ。今日だと、朝七時ぐらいまでと、夕方五時ぐらいからだな」
「中途半端~!」
「でも、日によっては片方しか叶わない時もあるみたいだから、両方見られる今日は恵まれてるほうだと思うぞ」
「そっかー! なるほど! ……飛行機って何時でしたっけ?」
「十四時十分だけど、変更して一本遅い十六時二十五分、その次の十八時ぐらいまでは、範囲内かな。まぁ、こだわらなければ他の航空会社やLCCも選択肢に入るし」
「……十一時まで待ってもいいですか?」
両手を胸の前で組んで尊さんを見つめると、彼はフハッと息を吐くように笑った。
コメント
1件
せっかく来たのだからギリギリ迄ゆっくり滞在して、神社だけでなく グルメもショッピングもみ〜んな楽しんじゃうのはどうかな…⁉️⛩️🌊🍴💕