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口調迷子
nmmnルール守ってください。
ご本人様とは無関係です。
「春の影」
春の柔らかな日差しが教室の窓から差し込む中、葛葉は机に頬杖をついてぼんやりと外を眺めていた。隣の席では、叶がノートに何かを書き殴っている。シャーペンの音がカチカチと響き、どこか落ち着かない雰囲気を漂わせていた。
「くず、最近ずっと上の空よね。何考えてるの?」
叶が顔を上げ、葛葉を見つめる。その声に普段と変わりないように聞こえるが、どこか心配そうな響きがあった。
「別に。何も考えてない。ただ春って眠くなるなって」
葛葉は小さく笑ってごまかした。でも本当は違う。叶の横顔を盗み見るたび、胸の奥がざわつく理由を考えていた。気づけば最近、叶のことばかり頭に浮かんでいた。
「嘘。目泳いでるよ?」
叶はそう言うと、突然手を伸ばして葛葉の頬を軽くつねった。
「いっっった!何だよ、いきなり!」
「ほら、やっぱり意識あるじゃん。ぼーっとしてるとか隙だらけ。」
叶はニヤリと笑う。その笑顔があまりにも無防備で、葛葉は一瞬言葉を失った。
放課後、二人はいつものように校舎裏のベンチに座っていた。叶はミルクティーを片手に、葛葉はただ空を見上げていた。
「なぁ、叶。お前はさ、俺のことどう思ってる?」
葛葉が唐突に口にした言葉に、叶の手が止まる。
「どうって…何急に。びっくりした。」
「いーや、なんでもない。忘れてくれ」
葛葉は慌てて視線を逸らしたが、叶は黙ったままじっと葛葉を見つめた。
「……葛葉さんさ、ほんとわかりにくいよな。でも、嫌いじゃないよ。むしろ…その逆かも」
叶の声は小さく、風に紛れて消えそうだった。葛葉は目を丸くして叶を見返す。
「え?」
「聞こえたならそれでいいでしょ。それとももう一回言って欲しいの?」
下を向いていたが、耳まで真っ赤に染っているのは隠しきれていない。
春風が二人の間をすり抜けていく。葛葉はそっと叶の手を握ってみた。叶は驚いたように一瞬固まったが、結局何も言わず、ぎこちなく指を絡ませてきた。
「お前さ…ほんと変な奴だな」
叶が笑いながら言うと、葛葉が「うるせー」と呟きながらも目を逸らした。
春の陽射しが二人の影を長く伸ばしていく。叶が葛葉の肩に軽く寄りかかると、葛葉は文句を言いながらも、そのまま受け入れた。夕暮れが近づくまで、二人は静かにそこにいた。