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突如として現れて戦場を席巻した戦車は、高い投資に充分応えるように獅子奮迅の働きを示し、初手で『血塗られた戦旗』の装甲車擬き二台を瞬く間に撃破して見せた。
奇策を用いて優位にことを運び、得意とする接近戦に持ち込む寸前での逆転劇は傭兵団を率いるパーカーに強い恐怖と焦りを与えた。
「はっ……走れ走れぇ!敵の塹壕へ飛び込め!このままじゃなぶり殺しにされるぞ!」
装甲車擬きや大砲では対抗できないと判断したパーカーは、僅かな可能性に賭けて敵中斬り込みを指示。
それまで装甲車擬きの影に隠れていた百を越える傭兵達は各々の武器を片手に飛び出し、百メートル先の塹壕目指して駆け出した。
だが、周知の通りシャーリィは敵対者に対して一切の容赦を行わない少女である。まして、既に奇策で犠牲者を出したのだ。
一人として生かして帰すつもりもなかった。
「撃ち方始め!一人として逃がしてはなりません!近付けてはいけません!」
砲撃が止んだ事で顔を出せるようになった『暁』一同は一斉に塹壕内から小銃や機関銃による掃射を開始。凄まじい弾幕が傭兵達に襲い掛かる。
「相手が悪かったと諦めて、あの世で悔い改めなさい」
特にカテリナは塹壕から身を乗り出して愛用するAK47による掃射を行い、次々と傭兵達を撃ち倒していく。
「気合いを入れな!ここから先に通すんじゃないよ!」
「シャーリィに手ぇ出したんだ!黙って死にやがれ!」
「お前らには同情するよ。まっ、お嬢を敵に回したのが運の尽きさ。諦めな」
「お嬢様のお手を煩わせるまでもない」
更に弾幕を潜り抜けた僅かな傭兵達は、エレノア率いる海賊衆と『暁』幹部達が迎え討つ。
戦車隊との交戦に必死な装甲車擬きと大砲部隊はこの場面で味方の援護が出来ず、結果斬り込みを図った傭兵達に甚大な被害が発生した。
歴戦の傭兵達を相手に一歩も退かない海賊衆と、縦横無尽に暴れまわる幹部連をみてパーカーは戦慄する。
「バカな!たった四年の新参が、なんでこんなに強いんだ!」
一部の武器に優劣があることを正しく理解し、奇策まで用意して途中までは狙い通りの展開となった。最後の最後で鉄の化け物が現れて全てをひっくり返された。
「撃ちまくれ!諦めんな!いくら鉄だろうが、何発も当てれば必ず撃ち抜ける!弾を持って来い!弾幕を緩めるな!俺達は勝つんだ!今日も!いつものように!」
装甲車擬きの一台に乗る相棒のレッグの声を聞き、パーカーは少しだけ落ち着きを取り戻す。
まだ負けていない。長年一緒に数多の苦難を乗り越えてきた相棒もまだ生きてる。今なら、いくらでもやり直せる。屈辱だがここは退いて再起を図る。リューガのやつにそう考えたときだった。
「弾切れだ!新しい弾を持って来い!急げ!奴らは直ぐに……!」
次の瞬間、マークIV三号車の放った砲弾が装甲車擬きを貫き、乗っていたレッグと傭兵達を巻き込みながら大爆発を起こした。
目の前で長年の相棒が跡形もなく吹き飛ばされる光景を目の当たりにし、そして仲間達の断末魔を耳にして、パーカーは半狂乱となった。
「はははははっ!あははははっ!」
彼は狂ったように高笑いをしながら、愛用の剣を引き抜いて戦車に向けて駆け出す。
「待て、撃つな。前進」
迫り来るパーカーを見てハインツは射撃させずただ前進を下命。
「あははははっ!あははははっ!あああああっ!!!!!」
パーカーはマークIV戦車を斬り付け、そして弾かれて倒れ伏し、数十トンの戦車によって無惨に乗り潰され、全身を粉砕された。
一号車が通過した後には、パーカーだったものが地面に埋もれ遺されたのである。
パーカーを失い指揮系統が消失した傭兵達は統率を欠く。こうなると残るは暁による蹂躙が始まった。
「敵は浮き足立っています。或いは大将を失ったのかもしれません」
塹壕から飛び出すこと無く双眼鏡で状況を観察しているシャーリィは、一旦下がり側に控えるセレスティンに語り掛ける。
「となりますれば、選択肢は二つでございます。お嬢様、御慈悲を与えますか?或いは、与えませぬか?」
「彼らは敵です、セレスティン」
セレスティンの問いにシャーリィはただ一言で答える。そして、それは方針の決定を意味していた。
「御意のままに」
セレスティンは一礼すると、赤い信号弾を打ち上げる。
「赤い信号弾っ!総員!総攻撃だ!一人として生かして帰すな!続けぇ!」
信号弾を見てマクベスがサーベルを抜きながら号令を掛ける。
今回の戦いで赤い信号弾は敵の殲滅を意味しているのである。
「一人残らず始末しな!ほらほら!気合いを入れなぁあっ!」
「げっ!?」
エレノアは傭兵の頭にカトラスを突き刺して、蹴飛ばしながら引き抜く。
「うおおおっっ!!!」
海賊衆はエレノアの檄を受けて更に士気を上げ激しく傭兵達に襲い掛かる。
対する傭兵達は砲撃、銃撃、更に戦車による蹂躙を受けながら海賊衆との接近戦を強いられていた。同士討ちを避けるために高度に組織化された支援を受ける海賊衆は手強く、更に秘密兵器を失ったことで彼らの士気は恐ろしいまでに低下していた。
「待て待てぇ!俺達は投降する!降参だ!もう止めてくれ!」
一部の傭兵は武器を捨てて降伏を申し出てきた。状況は最悪であり、それも無理はなかった。
「悪いな、うちのお嬢は相当お怒りらしい。恨んでくれていいぜ」
だが、そんな彼らに突き付けられたのは、無慈悲な通告であった。
敵対者に対して容赦と言う言葉を知らないのが、シャーリィという少女である。
普段ならば幹部連がある程度抑えて多少の慈悲を引き出すのではあるが、今回ばかりは状況が悪かった。
なにより奇策によりシャーリィの目の前で死傷者が出てしまったのだ。こうなると、幹部連でも抑えることは出来なくなる。
特にスタンピードで多大な犠牲を強いられて大切なものを一度にたくさん失った直後と言うこともあり、慈悲を掛ける余地を完全に失わせていた。
「無抵抗の俺達を殺すのか!?この人でなし!」
「は?なに言ってんだ。ここ、シェルドハーフェンだぜ?仁義だとか人道とかに期待すんなよ。むしろ殺してやるだけ優しいだろうが!」
「ごっ!?」
手を挙げていた傭兵の口に槍を突き刺すルイス。
それを合図に殲滅戦が再開される。大砲部隊は壊滅し、砲兵隊は誤射に細心の注意を払いながら砲撃を行い、装甲車擬きを全て破壊した戦車隊は退路を断ちながら蹂躙を開始。
逃げ惑う傭兵達を海賊衆や着剣した兵士達が追い回す様は狩りを彷彿とさせた。
「私も参加したいのですが?」
「前には出ない。シスターカテリナとそのように約束されたのをお忘れでございますか?ここで爺と鑑賞致しましょう」
そして自分も混ざりたいシャーリィはセレスティンに制されて、ただ味方による蹂躙を鑑賞するしかなかった。その事に不満を覚えたのは秘密である。