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最後の客を見送り、店内へと戻った。時間は後10分で13時になる。午前で店じまいだったとはいえ、物凄い人だったな。催しをしていたでも新メニューがあったわけでもないのに、時々こういう日があるのだ。理由はよく分からない。
「疲れたぁ……腹減ったし」
テーブルの上に顔を突っ伏し、絞り出すように呟いたのはルイスだ。人に対して畏まった態度を取るのが苦手な彼は、相当に神経をすり減らしたようだ。特に今日は客が多かったので、それは一際だったのだろう。それでも兄と一緒に頻繁に店を手伝ってくれるのだから感謝している。
「お疲れ様。すぐに昼食にするからな」
「セドリックさん、私手伝いますよ」
「いいよ、配膳するだけだから。お前も座って待ってろ、ミシェル」
俺の元に集まって来た隊員達を先にテーブルに付かせる。皆の昼食の準備をするため、俺は再び厨房へと向かった。彼らを店に呼び出したのはレオン様関連で大切なことを伝えるためだった。そのついでに午前の営業にも手を貸して貰ったのだが、思わぬ混雑振りでせわしなく働かせてしまい申し訳なかったな。
本日の賄いは鶏肉のトマト煮、卵スープ、素揚げした白身魚と野菜の甘辛炒め、それに数種のパンを添えて……皆腹が減っていたようで残さず完食してくれた。ルイスとミシェルはそれでも足りず、店用のケーキの残りにまで手を付けていた。
「ふーっ、うまかったぁ! ごちそうさま」
「ルイス、お腹いっぱいになったからって寝ちゃダメだよ」
腹が満たされ、眠そうな顔をしていたルイスにレナードが注意をする。寝るのはいいが、話が終わってからにしてくれよ。
「うん、平気。それにしても、こんなに忙しいとは思わなかったよ。人数が多かったら捌けたけど、半日だからって油断してた」
「たまに妙に忙しい日があるよな。アレなんでだろうな」
「俺も前から不思議に思ってたんだよ。特に何かやっているわけでもないのにね……」
今日の店の混み具合についてルイスと話をしていると、ミシェルが信じられない物でも見るようにこちらへ視線をよこした。
「……このふたり、分かってなかったんだ」
「みたいだねぇ」
ミシェルに続いて、レナードも呆れたような顔で見つめてくる。なんか腹立つな。更にクライヴまでも彼らに同調しているようで、俺の方を見ながら首を傾げていた。
「でも、なんで客が俺達のシフト把握してるんだろうな。半日営業っていうのは告知されてたけど、誰がいつ来るかなんて分かりようがないだろうに」
「あー……それはね、私がお客さんに世間話としてちょろっとね……」
「ミシェルのせいだったのか。俺らにも一応プライバシーってもんがあるんだけど、何してくれてんの」
「だってー、みんなが揃ってる時のお客の入り全然違うんだもん! 特にクライヴさんがいるなんてたまにしかない事なんだから大目にみて下さいよ。売り上げに貢献すると思ってさ」
ミシェルとクライヴの会話を聞いてると、混雑の理由はうちの隊員……もとい従業員が全て揃っていたからだという。ミシェルが一部の客に情報を流したのが広まってしまったのだ。
うちの客層は女性がメインだ。そういえば、兄弟目当てに通っている常連もいたな。そして、今日は珍しくクライヴもいた。この状態が客達にとって特別な日と定められているらしい。
「料理ではなく店員の容姿で繁盛するのは些か複雑なんだが……」
「何言ってるんですか! お店が人気なのはセドリックさんの料理あっての事ですよ!! いくら従業員が良くても料理がダメだったら、ここまでの人気は出ませんもの」
そこは俺だって自負している。そうでなければ店など出さない。でも、料理よりも従業員の方が目立ってしまっている現状に、多少モヤモヤするくらい許してくれよ。
「大丈夫、セドリックさんの料理は美味しいよ。それは断言できる。だから、自信持って」
「私達がお店を手伝うのは、この料理が食べられるっていうのも理由のひとつですからね。今日のお昼もとっても美味しかったです」
『拗ねないで』とクラヴェル兄弟に慰められる。拗ねるって……俺は子供か?
「とはいえ、うちの男隊員の目見の良さが客引きに一役買っているのも事実です。長所は多いに活かさなくては!! 最初は従業員目当てで来た客も、セドリックさんの料理を食べたら、そちらの虜になるのは間違いないですからね」
ミシェルの熱弁にクライヴも兄弟も頷いている。褒められて悪い気はしないけども……上手く言いくるめられたようにも感じてしまうな。
「それより、セドリックさん。何か大事な話があったんでしょ。先にそっち済ませちゃおうよ」
「ああ、そうだな。ミシェル、食器の片付けを手伝って貰っていいか?」
「はーい」
レナードに平気だと言ってはいたが、やはり眠いのだろう。ルイスはあくびが出るのを抑えていた。
雑談をするのは後にして、早く本題に入った方が良さそうだ。