テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
俺は「死神になった時に話したいから。」と言って、君を生かした。
でも、本当は。
救われた事実が
死ぬ動機を教えてもらったことが
複雑に絡んで、生きてほしいと、思ってしまった。
とある年の7月下旬。
星々は輝いていると言うのに、蝉は遠慮なく鳴いていた。
ついでに言うと、風が生ぬるく気持ち悪い。
さらに言うと持っている紙はジワッと湿っている。
「人間界ってどうしてこうも暑いんだろ〜なぁ?」
「ゼーレ!文句を言ってないでちゃっちゃとやるのネ!」
「わーったよ。」
俺の名前はゼーレ。
死神学校って言う死神を育成する教育機関を卒業した新人死神だ。
死神界でも人間界で言う会社。
そして部署、という物が存在する。
人間の魂を狩る者。
人間の魂を管理する者。
死神を統括する者。
その中で俺はとある会社で人間の魂を狩る専門の部署にいる。
「暑いんだから早くしなさいよネ!」
この口が塞がらない奴の名前はトート。
見た目はコウモリの羽が生えたヒヨコ。
これでも、俺と契約している立派な悪魔だ。
「分かったから少し口を塞いどけって。」
ターゲットは15歳の女子高校生。
ちょうど学校の4階のベランダから
身を乗り出している。
覚悟が決まっていないのか。
身を乗り出しておきながら、下をずっと眺めている。
「飛び降りなよ」
まさに悪魔の囁き。
「?!」
少女は声をした方に顔を上げるが姿は見えない。
それはそうだ。俺は死神で人間の視界に写っていい存在ではない。
そのはずだった。
「誰…ですか…。」
「これは驚いた…。」
バッチリと見えてしまっていた。
なんでだァ?
死期が近くても見えないように訓練されてる筈なんだけど??
「ゼーレ!アンタがおかしい訳じゃ無いのヨ!
この女…素質があるのネ!」
「素質があろうがなかろうが関係ねーよ。 死んでくれ。」
「でも、規則がっ!!」
俺とトートが言い争っていると
それを無視して少女は問いかける。
「あの、質問に答えて、ください…。
アナタたちは誰ですか?どうして、浮いているんですか?」
知らないものに立ち向かうのは怖いだろうに。
その証拠に少女の足は震え、目は涙でいっぱいだった。
「俺はお前の魂を狩る、死神だ。
分かったら、さっさと死ね。」
俺の辞書に相手を思いやる、という言葉は存在しない。
「死神が見えるのって死期が近いからですかね?
よく漫画で見ます〜!」
先程までの震えは止まり、目は潤んでいなかった。
むしろ、目をキラキラさせ興奮気味だった。
思ってた反応と違う。もっとこう…
「キャァァァー!!」って叫ぶもんだと思ってた。
偏見をここで謝らせてください。
「どうする?トート」
「どうしたもこうしたもないわヨ!
連れていきなさイ!」
「初めまして、お嬢さん。名前をお伺いしても?」
俺は死へと導くことを諦めて、勧誘路線に切り替えた。
「…霊です。」
「そうか!レイか。俺はゼーレ。宜しくな!」
さっきから言っている『素質』,『規則』。
これは、いわば主語無しの会話。
要は死神の素質があり、死神になれるよ!
というものである。
人間は基本的に死神になることはできない。
なぜなら、死神の根源と言っても良い
“死力“がほとんど無いからだ。
死力は魂の干渉が可能になる力。
なぜ人間に無いのか、と言われると。
人の魂は生きることを求めているから。仮に死んだとしても転生して生きる。罪を犯した者でも、自ら命えを絶った者でも。
だから、おかしいのだ。
人間に死神の素質があるという事は。
「レイ、死神学校に通って死神になろう!」
死神界の掟の中に
『種族は問わず死神の素質があるものは(一応)勧誘するべし。』
という物が存在する。
拒否権はある為、安心して断って良し!
「なんなんですか、急に。
私は死神になんてなりません。」
「そうか、なら死ね」
俺は冷たく言い切った。
情けなんてターゲットには必要無いからだ。
勧誘に切り替えた俺も馬鹿だな。数秒前の自分を殴りたい。
が、レイは一向に飛び降りようとしない。
「まさか、怖気付いたのか? 」
ずっと下を眺めていた癖に?呆れた。
「….そう、ですね。
飛び降りたら肉が飛び散って
見た人の精神が壊れるかもしれないですからね。」
あくまでレイは他人を心配するらしい。
「なら、首吊りは?薬物の過剰摂取でも良いじゃないか。」
人様に迷惑をかけることなく、ひっそり死ねばいい。
こいつは…
「昨日までこの世から消えてやると思っていても
いざとなると、できないだけなのネ!」
トートめ!言いやがった。
「何も間違ってはないノ!」
そうだ、間違ってはいない。
その証拠にレイは項垂れている。
「そう、なんです。こんな世の中、未練なんてありません。
ただ、死というものが怖いだけ…。
お手を煩わせてすみません!私、帰りますね。」
「あぁ…暑いから気をつけて。」
レイは窓を閉め鍵をかけて教室を後にした。
「声をかけない方が良かったノ!」
「いや、どちらにせよレイは死ななかったさ。」
俺がそう言うとトートは首を傾げていた。
「なんでなノ?」
「報告書だ 」
「いっつも見せてくれないゼーレ、嫌いなノ!」
「わりぃ。」
報告書にはターゲットの個人情報がびっしり。
メモ欄には
『なんども命を絶つことを諦めている。
過去に諦めた方法)薬物過剰摂取,首吊り,飛び込み…』
「消えたいのか消えたくないのか、意味わかんねー。 」
「人間は複雑なのヨ!」
胸を張って元気よく答えるトート。
その言葉に同意したのは…
「その通りだね、トート。」
ゼーレの上司、イフェル。
「げっ、!!イフェル….。」
あからさまに顔をしかめると
「げっ、とは酷いな〜。あと、敬語。」
肩を組もうとする。なんでだよ。
「で?魂は狩れたかい?」
「……」
沈黙を貫いていると、説教タイム。
「勉強しなかった?いちいち情をかけてたら〜…」
どこでも説教する上司が嫌い….デス。
「イフェル、ゼーレの顔が真っ青なのヨ。」
頃合いを見計らってトートが間に入る。
マジ感謝。
「ぁ…..。はぁ〜…。それじゃあ、帰ってからですね。
ありがとうございます、トートさん。」
「感謝されるような事ではないのヨ!」
と、言いながら顔を赤らめるトートを俺は横目で見る。
トート、コイツの何が良いだよ。ケッ!
「ゼーレ。」
不意に真剣な声で名前を呼ばれる。
「君が入社してから、仕事を頼むのはこれで4件目だ。
しかし、君は毎度の如くターゲットに寄り添い終わってから、魂を狩っている。それだといずれ、壊れてしまうよ。」
何も、言えなかった。
俺がわざわざ寄り添っている事は事実で時間が掛かる。
効率は悪く、賢い魂の狩り方では無い。
それでも。
「俺なりの美学があるんっすよ。
黙って見てやがれ下さい!」
イフェルに向かって指を差して宣言する。
「ゼーレ、書類の仕事を追加ね。」
….やっぱりコイツ嫌い。
「終わんねぇーよぉ!」
俺が泣き叫んでいると
「イフェルに指差すゼーレが悪いのヨ!」
と、トートの正論。
同僚は「いつものことだw」と笑っているとかナントカ。
「トート、これ、頼んだ」
ペンを走らせながら、とある紙を1枚、手渡す。
「分かったのヨ〜。トート様に任せるのネ!」
俺から離れていくトートを見送った後、
目線を紙に落とす。
目の前の仕事を終わらせるために!!!
約1ヶ月の長期休暇が終わり、日付は9月1日。
始業式と共に1人の『人間』が転校してきた。
転校生の名前は神黒ゼーレ。
実は死神です。
-・-・-・-・-
※コンテスト作品※
#O_ga’s contest.
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!