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──部屋で、買ってきたチーズやピクルスをつまみながらワイングラスを空ける内に、彼が眠たげにあくびを噛み殺す。
「眠いんですか、先生?」
ふと気づいて、尋ねると、
「いいえ…」と、首が振られた。
「……ただ、こんなにゆったりと寛げることが、信じられなくて……」
彼が僅かに戸惑うような表情を浮かべて、ワインをごくっと口に含んだ。
「……嬉しいですから。私の前で寛いでいてくれるのは……」
そう口にして、ソファーに気怠げに身体を預ける彼の頭を、そっと自分の肩にもたせかけた。
……と、肩にじわりと冷たく触れるものがあって、
目をやると、彼の頬を涙がつたい落ちていた。
「ああ…すいません…」
私の視線に気づくと、片手で涙を拭い、
「……珍しく酔ったのかもしれません」
彼は前置きをして、
「こんな穏やかな時を、誰かと過ごしたことがなかったものですから……」
グラスに残ったワインを煽り、微かに笑った。
メガネの奥の目が潤んで映るのを、初めて彼が涙を見せたお父さまのお葬式の際のように、腕に抱き留めた。
「……私がそばに……私が、愛してるから……」
「君は、私を愛してくれると……」
赤く充血する眼差しを向けて、
「……人をうまく愛することもできない、愛し方もよくわからないような私を……」
いつになく戸惑うような瞳を向ける彼を、
強く抱き締めて、首を横に振る。
「先生は、ちゃんと愛してくれているので……私は、あなたの愛を感じているから……」
「……感じるのですか? 私の愛を……」
首を縦に頷くと、
「ありがとう……」と、「良かった……」と、伝えられ、彼の胸にきつく抱き寄せられた……。