私から視線を外して、瀬南くんは再び眼鏡を拭き始める。
「何言ってんの」
「何って事実を述べたんだけど」
「はぁ…ほんと唐突すぎ」
丁寧に眼鏡を拭く彼の横顔をジッと観察していると、ムスッとした顔をこちらに向けてくる。
「ねぇ、見過ぎ」
「かっこいいから見ちゃう」
「っ……もう、何なの」
褒められ慣れてないのか、いつもとちょっと違う瀬南くんの顔が見れて嬉しい。
「ふふ、かわいい」
「うるさい」
眼鏡を拭き終わったのか眼鏡拭きをしまい、それをかけようと持ち上げた時に、ふいに彼は私の顔を見た
「?」
首をかしげると彼は口元を緩めて意地悪そうな顔をして私の顔に素顔を少し近づけてくる。充分な距離はあるはずなのに私の胸はドキドキと騒がしかった。
「眼鏡してなくてもさ、今の五十嵐の顔が赤色なのは見えてるよ?」
「?!」
「どんな表情してるのか分からないのが残念だけど」
目を細めて僅かに笑う彼は本当にかっこよくて心臓がうるさくて仕方ない。好みの顔面って罪深い。
彼は眼鏡をかけると何事もなかったかのように半分になった大判焼きを私の手から奪い、それに口をつける。
「うん、食べやすい温度になってるよ」
「……うん、食べる」
な、なんっ…何なのこの人ー!!!!!ほんと、調子狂う…
負けず嫌いというか、自分が劣勢になると優勢になろうとしてくるというかなんというか!!
「はむっ…」
「何むくれてるの?」
「むくれてない」
「さっき顔赤かったのもむくれて怒ってたから?」
「別に怒ってたわけじゃ」
「じゃあ何?もしかして照れてたの?」
「っ?!」
からかい口調でそんなことを言われ、大判焼きを食べていた手も口も止まり、顔に熱が集まってきてしまった。ただただ見つめ返すことしかできない私を余裕のある表情で見つめてくる瀬南くん。
この人、さっき私がかっこいいとか色々褒めたらめちゃくちゃ照れてたくせに!!ものすごい いじめてくる…!
「なぁに?顔赤くなってきたけどもしかして図星?」
「っ…う、いじめ、ダメ絶対」
「何それ。」
口籠る私を見て何が楽しいのか、彼は機嫌良さそうに残りの大判焼きを平らげた。
「瀬南くんのこと褒めただけなのに、いじめられるなんておかしい」
「いじめてなんかないでしょ?」
「いじめだよ!」
「生意気な子を可愛がってあげてるだけ」
「可愛がり方、独特すぎ!!」
寄り道といっても大判焼きを一緒に食べたくらいで、あとはずっとベンチで喋っていたから、あんまりいつもの帰り道とは変わらなかったけど、それでも今日はいつもとちょっと違う瀬南くんを見れたから私は充分満足した。
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