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「ありがとな! 音星! 俺、今まで野宿ばっかりだったから……」
「そうなんですか? それは良かったですね。あの? ところで、ここの家賃はどうしますか? なんなら私が持ちますけど……」
あ、宿賃?!
俺の持ち合わせは……?!
「いや! ここは俺が払う!」
俺は等活地獄の高熱でヨレヨレになった財布を、ズボンのポケットからやっとのことで取り出すと、屈んで床にひっくり返した。
ジャラジャラと小銭と、僅かばかりの数枚のお札が床に降りだす。
「おお! ……まあ……なあ……」
「うーん……まあ、ねえ?」
おじさんとおばさんが、呆れたような神妙なような顔を見合わせてから、こっくりと頷いた。
それが、今の俺の全財産で家賃はいいよという意味だった。そして、俺はここ八天街から地獄巡りをするための寝床を確保できた。
…………
翌朝。
ジリリリリリーーーン。
ジリリリリン。
と、あらかじめ民宿の朝食の時間に間に合うようにと、俺が昨日の夜にセットしておいた目覚まし時計がけたたましく鳴った。
真夏の朝日で暑くなってきた布団から起き上がると、廊下へでて狭い階段を下りる。
荷物といっても、財布と携帯とリュックサックしかない。
台所へ向かうと、
「おはよう。ぼうず」
「おはよう」
おじさんとおばさんが明るい花柄のテーブルに、朝食が盛り付けられた皿などを四人分配っていた。
「火端くん。そこの醤油とって」
「あ、ああ」
「ぼうず。お替りするだろう。茶碗は大きい方がいいだろう」
「お、おう!」
俺はおじさんとおばさんにいわれて、食卓で忙しく立ち回った。
それから、おばさんに呼ばれて台所へ行く。
宿賃をまけて貰ったから、仕方ない。
おばさんの台所でのテキパキとした動きに、付いていけずにいると、
「まだ、この時間は巫女さんも谷柿さんも、吉葉くんもこないからなあ」
「は、はあ」
谷柿さん?
古葉さん?
って、誰?
俺は首を傾げたが、すぐにわかった。
あ、そうか。
この民宿のお客さんだ。
その時、おじさんが俺の顔を急に覗いてきた。
二カッと笑ったおじさんは、
「ぼうず。二階にいる巫女さんを呼んでくる時間だ。さあ、行った。行った」
「え? へ??」
「あの人は朝はとても弱いのよねえ。さあ、巫女さんを呼んできてちょうだい」
おばさんが音星の部屋は、二階の左から二番目。ちょうど俺の部屋の斜め向いだと言うので、俺は音星を起こしに、何故かドキドキしながら、ゆっくりと階段をまた上がることになった。
斜め向かいの部屋のドアを、トントンとノックすると俺は声を掛けた。
「あ、音星……あの……起きてるかい?」
お、俺……声がすげえ上ずってるな……。
しょうがないか、高校になっても、あまり女子には話し掛けた時がなかったからな。ドアの向こうで、ゴソゴソと音がしたかと思うと、音星の眠そうな声が奥から聞こえてきた。
「おはようございます……ああ、火端さんですよね。ドアならいつもカギは開いてますよ~」
いつもの音星だった。
俺は、まったくといっていいほど、警戒というものがない音星の性格が薄々気になってきた。
俺はそこで、ふと思った。
一体。どんな子供時代を送ったら、こういう性格になるんだろう?
けれども、決して悪いわけじゃないから。なにせ地獄まで行って死者の弔いへ行こうとする人なんて、あまりいないだろうからな。
おっとりしすぎなのかな?