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#百合
トド村
322
大学の講義室。
一番後ろの席で、真尋と沙織は並んでノートをとっている。
周りの学生たちから見れば、二人は「いつも一緒にいる、真面目で仲の良い優等生コンビ」だ。
教授の板書を綺麗に写し、小テストの前にはお互いに問題を出し合う。他人にノートを貸してあげることもあるし、ゼミの話し合いでも周囲と円滑にコミュニケーションをとる。
「本当にあの二人って、お互いを高め合える良い関係よね」
周りはそんな風に、二人を好意的に公認していた。
けれど、机の下。誰の視線も届かない木製のデスクの陰で、二人の指先は、皮膚が擦り切れるほどの強さで絡み合っている。真尋は左手だけでペンを握り、完璧にノートを取りながら、右手は沙織の太ももの上で、彼女の指を一本ずつ、愛おしむように、そして逃がさないように締め上げていた。沙織は小さく吐息を漏らしながら、真尋から与えられる痛みに近い快感に、じっと身を委ねている。
(もっと、もっと強く握って……)
沙織の心臓は、講義の内容ではなく、真尋の指の感触だけで動いていた。沙織のスマホの画面には、真尋が設定した位置情報共有アプリが常に起動している。沙織が大学のどこにいるか、どのトイレに入っているかまで、真尋はすべてを把握していた。そして沙織もまた、真尋のスマホを完全に管理している。お互いのスケジュール、行動、交友関係。そのすべてを網羅し、縛り合っているのに、二人が提出する課題はいつも完璧で、出席率も100%だ。だから、誰も二人の異常性に気づかない。
キーンコーンカーンコーン
講義の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
その瞬間、二人は示し合わせたように、すっと指を離した。
「じゃあ真尋、次のゼミの資料、図書館で集めておこうか」
「うん、そうだね。分担してやれば早く終わるし」
席を立ちながら、二人はいつもの「優秀な大学生」の仮面を被る。周りの友人たちに「お疲れ様ー」と爽やかに手を振り、講義室を出る。
誰もいない、薄暗い階段の踊り場。すれ違う人もいない一瞬の隙を突いて、真尋は沙織を壁際に追い詰めた。
「ねえ、沙織。さっきの講義中、前の席の男子の方、見てたでしょ」
真尋の目が、感情を失ったように冷たく光る。
「……見てない、見てないよ真尋。私は、黒板と、真尋の手しか見てない」
沙織は怯えるような声を出しながらも、その頬は歓喜で微かに紅潮していた。真尋の重すぎる疑惑が、束縛が、自分が彼女の所有物であることの証明だからだ。真尋は沙織の首筋にそっと触れ、脈打つ頸動脈を指先で軽く圧迫する。
「いい子。沙織の目には、私だけが映っていればいいの。他のゴミを映したら、その目を潰しちゃうからね」
「うん……真尋になら、何をされてもいいよ。私を、真尋の教科書みたいに、全部真尋の文字で埋め尽くして……」
お互いの歪んだ愛の重さで窒息しそうになりながらも、二人は小さく唇を重ねる。
そして、足音が聞こえた瞬間に何事もなかったかのように離れ、二人は教科書を抱えて、また「誰もが羨む綺麗な親友同士」として、陽の当たるキャンパスへと歩き出していくのだった。
コメント
4件
ちょっっ...好き...((
机の下で指を絡め合うシーン、めちゃくちゃ生々しかったです。表向き優等生の仮面と、裏の歪んだ愛情のギャップがたまらない。沙織の「何をされてもいい」って台詞に、完全に依存し合ってる関係性が滲み出ててゾクゾクしました。続きが気になる…!