「……ん?」
ソファに座っていた彼女が、僕の顔を一瞬見て――
すぐにそっぽを向いた。
3回目だ。
目が合いそうになるたび、まるで避けるように逸らされてる。
僕が話しかけても、返ってくるのは「うん」とか「別に」とか、淡々とした短い返事ばかり。
夕飯も、いつも一緒に作ってるのに「今日は一人でやるから」って。
えっ、ちょっと待って?
今日僕、なんかやらかしたっけ……?
「ねぇ、僕……なんかした?」
彼女の隣に腰を下ろしながら訊くけど、スマホから目を離す気配はない。
「してないよ」
「ほんとに?」
「うん」
それ以上は何も言ってこない。
静かすぎる時間が、逆に怖い。
さっきまで普通に笑ってたのに。
一緒にダラダラ映画見ようね、って言ってたのに。
こんなの、想像以上に堪える。
「……ねえ、僕のこと……嫌いになった?」
声が思ったより小さくなったのは、たぶんちょっと本気で怖かったから。
彼女の指が、スマホの画面の上で止まった。
「え?」
「僕、何もしてないつもりだったけど……もしかして気づかないうちに傷つけてたなら、ほんとにごめん。だから……そんなふうに冷たくしないでよ」
彼女の視線が僕に向く。
でも、その次の瞬間――
「……ぷっ」
吹き出すような笑い声が返ってきた。
「ちょっ、笑ってる!? 僕、わりと真剣なんだけど……」
「ごめん、ごめん……!ほんとごめん、悟……ちょっとだけ試したの……」
「……試した?」
「冷たくしたら、悟どうするのかなって。なんか、見てみたくなっちゃって」
「…………はぁ」
深いため息。膝の力が抜ける感じ。
安心したのと、脱力したのと、かわいさで怒る気も起きないのとで――もう、全部抱きしめたくなった。
「……僕のこと好き?」
「好きに決まってるでしょ」
「じゃあ、今日の分全部取り返して? 一生分甘えさせて」
そのまま彼女の腕を掴んで、引き寄せる。
ぎゅっと、体を預けるように抱きしめた。
「冷たかっただけで、ほんとにちょっと壊れそうだったんだけど……」
「壊れちゃった?」
「うん、完っ全に。だから、もう責任とってよ。今日、僕のことだけ見てて?」
「……うん。ごめんね。ずっと側にいるよ」
彼女の手が僕の背中を優しく撫でてくれて、ようやく心臓のバクバクがおさまっていく。
彼女が笑ってくれるなら、僕は何度だって壊れてもいい。
でも、冷たいのだけはもう、勘弁して。
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