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桜咲かな
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#学園
人間🫧🪄/👤💚
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午後の日差しが少しずつ傾き始め、図書館の大きな窓から差し込む光が、机の上に山積みにされた古文書や資料の束を黄金色に染めていた。大学生活もいよいよ大詰め。
私——皐月渚は今、卒業を控えて取り組むべき最後の関門、「卒業研究・制作」の執筆に追われていた。
テーマは、もちろん『現代における精神的負荷(サイコメトリー)と残留思念の記録・検証』。
オカ研の部長である九条先輩をはじめ、部員みんなの全面協力を得て、これまでに私たちが関わってきた事件——あの大学病院のサイバー遠隔殺人のログや、神代家の「記憶の牢獄」の民俗学的考察などをまとめた、前代未聞の論文だ。
「……ふぅ」
私はペンを置き、凝り固まった肩を大きく回して深く息をついた。
ペンだこのできた右手を軽く揉みほぐしながら、パソコンの画面に並ぶ文字を見つめる。
高校生の時は、自分の持つこの力に怯え、誰にも言えずにただ孤独に耐えていた。
それが今では、大学の正式な卒業論文として、こうして形にしようとしている。不思議なものだ。あの時、私を引っ張り出してくれた峯岸さんや佐藤さん、そしてオカ研の仲間たちに出会えなければ、今の私は絶対にここにいなかった。
「おや、まだ頑張っているのかい、未来の所長さん」
ふと、心地よいパイプ(もちろん火はついていない)の香りとともに、九条先輩が静かに席に近づいてきた。手には、温かいハーブティーの入った紙コップが差し入れられている。
「ありがとうございます、先輩……。なんとか、最後の章まで書き終わりました」
私が画面を指さすと、九条先輩は眼鏡のふちを押し上げながら、満足げにうなずいた。
「素晴らしい出来栄えだね。民俗学、心理学、そして君の持つリアルな特異体質の融合……。うちの大学の歴史に、いや、オカルト研究の歴史に確実に残る一冊になるよ」
「大げさですよ……。でも、みんなの協力がなかったら、絶対書けませんでした」
私が微笑むと、九条先輩はふっと柔らかく笑い、それから少しだけ真面目な顔つきになった。
「いよいよ、来月からだね。『皐月霊能相談所』の正式オープンは」
「はい……!」
胸の奥が、ぎゅっと引き締まるような、それでいて心地よい高鳴りに包まれる。
ビルの2階を借りて、看板を掲げ、本当に「自分の足で」誰かの無念を救う場所を作る。警察の手が届かない闇の向こうで、泣いている人たちの声を聞き届けるための場所。
まだ不安がないと言えば嘘になる。だけど、私にはもう迷いはない。
その時、机の端に置いてあったスマホが、トントンと軽快なバイブ音を立てた。
画面を見ると、見慣れたアイコンからメッセージが届いている。
『峯岸:いよいよ卒業論文の締め切りだろ。終わったら、例の事務所の物件の契約確認に行くぞ。……それと、佐藤の奴が「お祝いに特大の特大ケーキを奢る」って息巻いてるから、覚悟しとけ』
メッセージの下には、相変わらずバタバタと忙しそうに走り回っている佐藤の姿が目に浮かぶようなスタンプが添えられていた。
私は思わず吹き出しそうになりながら、キーボードを叩いて返信する。
『——はい! 論文、今ちょうど書き終わりました。今からそちらに向かいますね。顧問の峯岸さんも、しっかり立ち会ってくださいよ?』
送信ボタンを押すと、すぐに「おう、任せとけ」と短い返事が返ってきた。
窓の外を見上げると、初夏の青空に白い雲がゆっくりと流れていた。
私の新しい未来の扉が、今、静かに開こうとしている。
コメント
1件
卒業論文の執筆と相談所の開業準備——渚さんの成長がここに集約されたような、温かくて希望に満ちた回ですね。自分を「孤独に耐えていた高校生」と振り返るあたり、あの頃を知る読者としては感慨深いです。九条先輩の「未来の所長さん」という呼びかけと、峯岸さんからの変わらぬスタンプ付きメッセージの対比が、彼女を取り巻く人間関係の豊かさを感じさせてくれました。「新しい未来の扉」が開く瞬間、立ち会えて本当に嬉しいです。