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語り手:大斐
昔、まだ俺たちが小学生だった時の話。
近所に“評判の幽霊屋敷”とい空き家があって、
まぁ、どこにでもある平屋なんだが、何でも噂では悲惨な死に方をした人が居てそれ以来、部屋の壁に苦悶の表情を浮かべた人の顔が浮かんでいるらしい。
当時、馬鹿なお子様だった俺たちはその顔がとやらを確認すべく突入した。
程なくして、それは居間らしき部屋で見つかった。
確かにその染みは物凄く苦しそうな顔に見える。
普通はここで「ぎゃー!怖ぇ!」とかなるんだろうが、
生憎、俺たちは馬鹿だった。
「よっしゃ!俺、鼻毛描く!」
「俺、眉毛!」
各々に用意していたマジックペンで、その顔に思い思いの落書きを施す。
すっかり劇的ビフォーアフターなお茶目フェイスになった怨念の顔(仮称)に満足し帰宅。
だが後日、或魔が原因不明の高熱で一週間近く学校を休んだ。
なんとか体調がよくなった或魔は開口一番変な夢を見たと言う。
「なんか夢の中で、物凄い形相をしたおっさんに追いかけられたんだ…」
俺たちはまさかと思い、まだ全快とは言い難い或魔を残して例の幽霊屋敷に向かった。
居間に行くと、落書きの下に例の“顔”が無い!
探してみるまでもなく、それは落書きの直ぐ横の壁にあった。
噴怒というか、怒り狂った形相に姿を変えたそれが俺たちを睨みつけている。怒っている───霊が怒っているんだ!
だが、俺たちは容赦なく馬鹿だった。
「なんだコイツ!怒ってるのか!?」
「生意気だ!落書きしてやれ!」
猛攻だった。類稀に見る猛攻だった。今度は胴体も描いた。“おならプー”と屁も描いた。
数日後、或魔がまた変な夢を見たと言う。
「なんか、前に見たおっさんが…泣いてた」
俺たちは三度、幽霊屋敷に向かった。あの染みはもう、どこにもなかった。
今思うと、なんか可哀想な事したと思わんでもない。