テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
【リッツカールトン・由紀と慎吾の部屋】
・:.。.・:.。.
「洋平さん・・・・ 」
その呼ばれた声に洋平が降りかえると、由紀がベッドに座って、こちらを見て微笑んでいた
「・・・具合悪いんじゃなかったんですか?」
「嘘ついちゃった・・・・だって由紀・・・洋平さんと、どうしても二人っきりになりたかっの」
上目づかいでペロッと由紀は舌を出した
洋平が踵を返して出て行こうとするのを、素早く追いつき、由紀が洋平の手首を掴んで引き止めた
「待って!信じてもらえないかもしれないけど・・・由紀・・・・洋平さんに一目ぼれしちゃったの!」
洋平は由紀の顔をじっと見つめた
部屋の中は緊張感で満ちていた、由紀は洋平の腕を強く握りしめ、何かを必死に訴えようとしていた。由紀の声は震えていた
「初めて洋平さんに会った時から・・・・ずっと結婚したこと・・・後悔している、こんなに人を好きになったの初めてなの、遅すぎるのは分かっているけど・・・気持ちだけは伝えたくて・・・」
ポロリと由紀が一粒美しい涙を流した
「由紀・・・くるみさんよりもっと早く洋平さんに巡り会えていたらよかったのにって・・・そうしたら――」
「触んなゴミ女、匂いが移る」
その時、洋平が掴まれている由紀の腕を、凄い力でパシンッと振りほどいた
「お前のキモい体、無理やり触らされたからには、セクハラで訴えるから覚悟しろ!一ヶ月後にお前宛に書類が届くから裁判所に出頭な!くるちゃんが仲良くしたそうだったから合わせてやってたけど、お前みたいに尻を放り出してウロついてる女、原住民以下だ、どうせアソコもガバガバなんだろ!」(↑仮想通貨っ子の本性)
「なっ・・なっ・・・」
由紀があまりの洋平から発せられる罵詈雑言と、巻き舌を浴びせられて、本当にあの紳士の洋平が今言ったのかと、目を点にして言葉を失っている
「ゴミはゴミらしくしていろ!これ以上綺麗なくるちゃんを困らせるな!ずっと言いたかったんだ、俺達に付き纏いやがって大迷惑なんだよ、こっち見んな!近寄るな、息吐くなカスッ!地球が汚染される、お前みたいな金目当て整形ブス女、こっちは嫌と言うほど見て来たんだっっ!」
由紀が知る限り、とっても優しくて紳士だった、あの洋平の、あまりもの豹変ぶりに意識が追い付かない
「お前みたいなゴミ女にはあのゴミ男が似合いだよ」
「ゴッ・・・ゴミって・・・なによーーーー!あんた!言っていい事とっっ悪い事っっ― 」
ようやく自分が攻撃されていると悟った、由紀のヒステリーなど全く無視して、洋平がスタスタ入口に向かう
「それじゃぁ、ガバガバさん!中年のデブおっさんによろしく、もう俺達を見ても声かけんな!もし声をかけたりしたらそのゴミケツ蹴り上げんぞッ!」
「でっ・・・出てけーーっ!」
あまりにも侮辱されて腹が立った、由紀が近くにあった灰皿をシュッと投げたが、ドアに当たる頃にはもう洋平はいなくなっていた
・:.。.・:.。.
コンコン・・・・「くるちゃん・・・? 」
洋平は自分達のハネムーンスイートのベッドルームのドアの前に立っていた
ボリボリ頭を掻いてドアに話しかける
「由紀さん・・・大丈夫みたいだよ・・・たいした事なさそうだから慎吾さんに任せて来た、遅くなっちゃったけど・・・お腹すいたでしょ?僕・・・違う店予約したから今からディナーに行こうよ」
シーン・・・と部屋の音も聞こえない
・・・・寝ているのかな?
ガチャッ「くるちゃん―――入るよ・・・」
洋平はピタリと立ち止まった
そこには誰もいない暗い部屋だった
月明かりが差し込む寝室に少しだけ開いている、窓から海風がレースのカーテンを揺らしてた、サーと洋平が青ざめる
「くるちゃんっっ!!!」
洋平は叫んだ
・:.。.・:.。.
「ど・・・どうしよう・・・」
くるみは小さく呟いて途方に暮れていた
あれから泣きながら辺りを彷徨っていると、いつの間にかワイキキビーチ沿いの、カラカウア・アベニューを離れ、街灯が少ない住宅街に来ていた
うわ~ん・・・「ここ何処――――――――!暗いよぉ~~!怖いよぉ~~~洋平くぅ~~~~~ん」
くるみの不安はさらに募った、暗闇が彼女を包み込み恐怖感が胸を締め付ける
ドンッ
「あっ・・・ごめんなさい・・・」
その時、突然、誰かにぶつかった、くるみは咄嗟に謝りながら顔を上げた
そこに立っていたのは、ドレッドヘアーに黒い肌を持つ長身の二人の男だった。二人は互いに目配せをしてニヤリと笑った
「あっ・・・あの・・・・」
くるみはその二人のしらじらしい笑顔に、不吉な予感を抱いた
「「¢£%#&□△◆■!?・・・」←(くるみにはこう聞こえる)
一人がくるみに声をかけた、その男の声は軽いのだが、くるみにはその軽さが脅威に感じられた
「あ・・あの・・・通してください・・・」
くるみはできるだけ冷静に答えたが、心臓が早鐘を打つ音が自分に聞こえる
「◎△$♪×¥●&%#?!」
もう一人の男がくるみに何か言った、そして後ろの青い車の後部座席のドアをバカンッとあけた
―どうしよう!怖い―
くるみは思わず身を引いたが、最初の男がさらに近づいてくる。くるみの周りを二人が取り囲み始める、彼らの息遣いが聞こえ、恐怖で冷や汗が出る
「そ・・・そこをどいてよっっ!」
くるみは精一杯怖い口調で言ったが、二人はそれを無視したかのように、ヘラヘラ笑いながら彼女の周りを回り続ける
咄嗟にくるみは洋平に助けを呼びたかった、けれども、今は彼を呼ぶことさえできない、携帯電話はホテルの部屋に置き忘れてきたのだ
その時突然ぐいっと何者かに腕を後ろに力強く引っ張られた
「キャァ!」
振り向くと洋平がいた
物凄い力でくるみの腕を掴んで自分の後ろに回し、盾になって大声で男達に怒鳴った
「don’t touch my wife.!!」(俺の妻に触るなっっ!!)
洋平は荒い気息混じりの声だった。肩で息を切らして、背中のシャツは汗でびっしょり濡れていた
「洋平君!」
するとドレットヘアーの二人組の表情が変わった、目をぎらつかせ、二人供ポケットからナイフを取り出した
「キャァ!」
その光るナイフを見てくるみは思わず叫んだ
「money!」
そう言うと男は洋平に人差し指と親指を擦りあわせた
―金をよこせ― と言っている
男達の目は血走り、さらに洋平に詰め寄ろうと距離を縮めた、洋平よりも数段体が大きい男が二人、二対一で圧倒的に洋平が不利だ
「オーケー・・・・」
ふ~っと洋平はわざとらしくため息をつき、降参とばかりに両手を挙げた
「よ・・・洋平君・・・・」
くるみは怖くて怖くて、ただ洋平の後ろでガタガタ震えた、洋平は財布を探すフリをして、ポケットをゴソゴソする
二人の男は首を伸ばしてそれを観察する
その瞬間、すばやく洋平が近くにあったゴミ箱をブチまけ、二人の男に空になったゴミ箱を投げつけた
そのゴミ箱が一人の男に頭にヒットし、男は倒れた、もう一人が怒りに吠えた
「走れッッ!!」
と叫び、洋平はくるみの手を強く握り、ダッシュで駆けだした
くるみも勢いづき、洋平の手をしっかり握り全速力で走った
男たち怒声が遠ざかる中、洋平の力強い手はくるみに勇気を与え、二人はいつまでも全速力で、夜のワイキキを駆け抜けた
ハァ・・・ハァ・・・・「もう・・・ダ・・メ・・・・」
どれぐらい走っただろう・・・
男達はその後の追跡を諦めたのか、二人を追ってくる気配はなくなった
二人はそのまま砂浜のヤシの木の陰に隠れた、夜のワイキキビーチの砂浜で波の音だけが彼らの伴奏となった
静寂と波の音・・・・辺りは二人の荒い息遣いしか聞こえない
くるみは息を切らしながらも隣を見つめた、そこにはくるみを守ってくれた洋平がいた
ハァ・・・ハァ・・・「洋平く・・・・」
「バカ野郎!!!殺される所だったんだぞっっ!わかってんのか!!」
夜の砂浜に洋平の怒声が響いた
「ひっ!!」
出会ってから初めて、いつも優しい洋平にくるみは怒鳴られ、飛び上がった
洋平の怒りは収まらない
「どうして黙って出て行ったんだ!スマホも持たないで!正気か?僕がどんなに心配したかわかってるの?」
「ご・・・ごめんなさ・・・・」
くるみは洋平に、両手でゆさゆさ肩を揺さぶられて、謝罪と共に涙を流した
「いったいどうしちゃったんだよ!ハワイに来てから君がわからないよ!あんなキモい夫婦と遊びたがったり、笑ってるかと思えば急に不機嫌になったり、夜は酒を飲んで寝ちゃったり・・・・」
彼はくるみの肩を離し、何とか冷静になろうと必死に普通の声を出そうとしているが、まだくるみを見るその目は怒っている
ハァ~~・・・「僕と結婚したのを後悔してるのなら、そう言ってくれ・・・・」
とうとう彼が頭を抱えこんでしゃがみ込んだ、そこでくるみは初めて彼の気持ちになって考えた
うなだれる洋平の首は汗でびっしょりだ、そして背中全体にも大きな汗のシミが出来ていた
ボソッ・・・「こんな訳の分からないのは・・・嫌だよ・・・不安でしかたがない・・・・」
くるみは洋平の背中が呼吸に合わせて盛り上がるのをじっと見ていた、うなじに玉の汗が噴き出て、流ている
もしかして、ずっと私を探してくれていたの?・・・
・:.。.・:.。.
ワイキキの風に彼の髪が優しく揺れている
くるみはその場に突っ立ったまま、しゃがんでうなだれている彼を見つめた
不安なのは・・・私だけじゃないんだ
・:.。.・:.。.
今思えば・・・ずっと洋平君は笑顔で私に合わせてくれてた・・・
うまく話せる気がしなかったけど、声を震わせて言った
「ち・・・違うの・・・・私・・・洋平君が好きで・・・好き過ぎて・・・でも・・・自分に自信が無くて・・・」
くるみが震える声で言う
ヒック・・・「どうしていいかわからないの・・・洋平君と結婚出来たのとっても嬉しいのに・・・いつか洋平君が素敵な女の人とどうにかなっちゃうんじゃないかって・・・わっ・・私以外の・・・誰かと・・・」
洋平は目を見開いてくるみの目の前で、とうとう砂浜にあぐらをかいて座り込んだ
脱力してじっとくるみを見ている
グスッ・・・「好きなの・・・洋平君が大好きなの・・・よっ・・・洋平君の・・一番になりたいの・・・他の人を見るなんて嫌・・・ 触るのなんかもっと嫌っ!私だけ見て欲しいの、ゆ・・・由紀さんとか・・・・」
洋平がはぁ?と首をかしげた
「・・・と言う・・・事は・・・君は焼きもちを焼いていたって・・・こと?」
コクンッとくるみがだぁ~っと滝の様に涙を流して頷いた
はぁ~~~~・・・「おバカなくるちゃん・・・それで殺されちゃ元もこもないよ・・・・」
うっう~~~・ヒック・「ごめんなさいっごめんなさいっ」
本当にバカだった・・・洋平君が助けに来てくれなかったらどうなっていたか・・・
きっとあのまま抵抗も出来ずに車に乗せられて・・・
ブルッと想像したら震えた、本当に私は軽率だった・・・ここは日本じゃないんだ
洋平が尻の砂をパンパンッと払い、立ち上がって真っすぐクルミを見た
「あんな底辺庶民キモ夫婦(←毒舌)くるちゃんが一緒にいて楽しそうにしてたから合わせてただけだよ、もう僕達に付きまとわないでって、丁寧にお願いしてきたよ(※大ウソ)納得してくれたんじゃないかな? 」
「そっ・・・そうなんだ・・・」
くるみは自分の中で、安堵が押し寄せて来たのを感じた、彼の声が優しくなった
よかった、いつものくるみの大好きな彼が帰ってきてくれた
洋平がしっかりくるみと目を合わせる
「いいかい?くるちゃん!これだけは分かっておいてくれ!君は優秀な秘書さんだから、自分を抑えて大勢の人と上手くやっていく術を身に着けているけど、僕の住む仮想通貨界隈は一匹狼しかいない!!自分の洞察力と直感力が勝負の世界だ!!群れるとダメなんだよ!僕はくるちゃんの優しさや思いやり溢れる所が好きで、傍にいて見習おうと思うけど、くるちゃんも自分の領域を犯してくるヤツらにはハッキリとした意思を示す術を、僕から学んでほしい 」
「洋平君・・・・」
そっと洋平が泣いている、くるみの涙を指で救い、頬に張り付いている髪を優しく耳にかけた
キッパリ「僕は仲間も友達もいらない!くるちゃんと、その家族がいれば、それでいいんだよ」
それは・・ちょっと極端なんじゃないだろうか?とフと思ったが、くるみはとっても嬉しい言葉にまた涙した、洋平君はそういう価値観なんだ、初めて知った
「君は僕の人生の光なんだよ?僕が君と結婚出来てどれだけ嬉しいか、まだわからないの?」
私の方こそあなたは私の人生を明るく照らしてくれているわ・・・
そう思ったが上手く言葉に出て来ない
彼は瞬きもせずにくるみをじっと見つめている、その態度にしっかりとした意思を感じる
たった今わかった・・・
私はもっと彼を理解し、信じないと・・・
・:.。.・:.。.
サザ波の音・・・・
月の光が海のさざなみに照り返していた
プルメリアと洋平君の香り・・・
星のシャンデリアの下、真っすぐ彼は私を見つめてくれる
ヒック・・・「洋平君・・・ごめんなさい・・私・・・・もっと洋平君の奥さんにふさわしくなるね・・・洋平君の一番になれるように・・・」
「おバカなくるちゃん、本当に何もわかってないんだね・・・・」
ザザン・・・ザン・・・
洋平君の心臓の音・・・・
お月さまの照明・・・キラキラしている洋平君の瞳には、今は私しか映っていない
「初めて会った時から、君しか見えてないよ・・・」
・:.。.・:.。.
ようやく二人は星屑のシャンデリアの下でキスをした
ちょこっとハッピー・ハネムーン♪
・:.。.・:.。.