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気が付けば眠っていてそんな自分に笑ってしまった。もう、睡眠薬入りのコーヒーを飲むことなどないのに。
笑っている場合ではないのだが。うし、と前野は背伸びをする。
休憩室ですこし仮眠をとってまた仕事に戻ろう。
前野は、障がい者である。発達障害を持っていて、昔から、周囲に溶け込めぬ自身に苦悩していた。
だから、社会人になってようやく病名が判明した頃には安堵したものだ。ああ、これでやっと楽に生きられる、と。
職場でも浮いてしまうことが多く。原因がなんなにかまったく理解できずひとり苦しんでいた。
そんな前野を受け入れてくれたのが、いまの勤務先であるここちよくカンパニーである。
社会人をしているといろんなことがある。マスクを外して、おおこんなに女性が多かったのかと、前野は内心でびっくりもしていた。休憩をこまめに取る前野はフロアの通路を歩くことが多く、そこで、同じ会社に勤務する社員の顔を何人も見ていたのだ。
前野が入社した頃はまだマスク着用が必須で、だから、みんなの素顔が分からなかった。
なので、マスクを外した集団がパソコンに向かっている姿は圧巻である。前野と同じ年くらいの年齢の女性も多いと思われる。思っていたよりも老けていたな、というのが率直な感想である。
やれやれ。そんなことはさておき。今日も頑張って仕事をしなくては。
前野の実家は静岡である。妹夫婦は元気に子を育てて暮らしている。
自分は、故郷を捨てて東京まで来たのだ。来たからにはなにかしらの爪痕を残したい。
独身者は気楽だと思われがちだが勿論苦労もある。姪っ子も甥っ子も可愛いが、このまま一生一人なのかな。もし働けなくなったらどうするのかな、という不安もある。
大丈夫。自分は今日も頑張れる。
前野を陥れようとした中島に対しては、被害者感情よりも可哀そうだな、という気持ちのほうが強い。あそこまでしないと太刀打ちできない、と思ったのだろう。有香子は確かに、才媛で、実力者である。自分よりも後に入り、より責任のある仕事を任された有香子に対して思うところがないでもない。
でも人間、誰しもどこかで必ず必要とされている。そのことが中島にも分かればいいな、と前野は思う。
課長である広岡に断りを入れ、一旦仮眠を取ったのちにまた前野は仕事に戻った。今日もすることが盛りだくさんである。さぁなにから取り掛かろう。前野自身、働くことへの緊張感を楽しんでいる節がある。みんなみんな、大切な仲間だ。貢献できるようにすこしでも頑張ろう。
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