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「ほらいつまでもテレビばっか見てないで。朝ごはん食べなさいっお支度するよっ」
堀田朝枝は毎日忙しい。
朝から洗濯物を回し、子どもたちの食事を作り。自分の分は作る余裕がないので台所にておにぎりを摘まんでいる。夫の弁当を作り、子どもたちや夫を送り出す。
一息つく間もなく洗濯物の山を一旦干す。取り込んだ洗濯物の山をひとつひとつ仕分けし、しまうべきところにしまっていく。
ああ、と朝枝はため息を吐く。インスタがやりたくなった。インスタを見たくなった。
朝枝が、洗濯物の山の写真を撮って投稿すると、すぐにいいねがついた。……気持ちがいい。
インフルエンサーになるって気持ちがいい。苦しみも楽しみもみんなでシェア出来る。戦っているのが自分だけじゃない、と確信できるから。
スーパーにしか出かけない日であってもしっかりメイクをするのが朝枝の流儀。スーパーに寄ってから帰るともうお昼だった。
お昼ご飯は納豆ご飯にした。そこから――リビングに放置されていた子どもたちのおもちゃだのお洋服だの旦那の丸まった靴下だのを片付ける。また洗濯物が増えちゃったよ。朝枝は嘆かわしい気持ちになる。
夫とは勤め先だった信用金庫で知り合った。自分はもう、結婚しないのかな……と思っていた矢先に出会った。
結婚後間もなく妊娠したが、切迫流産の危険があったので、自宅安静を医師に命じられた。トイレ、シャワーのとき以外は極力動くなと言われ、出血が怖かった。
苦労して産んだ子どもたち。だからこそ大切に育てたい。
昼過ぎには子どもたちを乗せた幼稚園バスが帰ってくるので、朝枝は荷物を持ってスタンバイし、今度は息子と娘をスイミングクラブ送迎の乗り場まで送り出す。……やれやれ。また、掃除が間に合わなかった。いいやもう。クイックルワイパーでささっと済ませよう。
夕食は肉じゃがだから四時に作ればいいか。
作ったらまた写真をインスタにアップしてみんなの反応を確かめよう。
人生は――辛くもあるが楽しくもある。さぁ、今日も、自分という人生を、楽しもう。マンションに戻る朝枝は、雲間から差し込む日差しの眩しさと美しさに目を細め、すかさず写真を撮った。
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