コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
アリシアさんは、全ての鎧を消すと、軽装になって僕たちのことを案内した。
黒い鎧は全て魔法で創られたものだった。
「さっきの試合なんですけど、例えばハナから僕が戦わないことを宣言していたら、合格だったんじゃ……?」
「いえ、戦わない選択をするへっぴり腰なんて、岩の神に会わせるわけないじゃないですか」
そう言うと、アリシアさんはニコッと笑う。
「でも、私すらをも打ち負かす脅威もまた、会わせるわけにはいきません。『戦闘を選んで私に敗けること』で、本当は合格にしようと思っていました」
途中棄権もまた、敗北宣言みたいなもの。
何はともあれ、よかった。
あのままじゃ、アリシアさんを打ち負かしてしまうところだったからだ。
「それより……アゲル! 『闇魔法』ってなんだ!? 初めて聞いたぞ! そんなものがあるのか!?」
すると、驚くようにアゲルは答えた。
「いやいや、ヤマト。光魔法があるんですから、相反する闇魔法も合って当然だとは思わないんですか!? 光と闇は対になるものです。光があれば闇もあるのですよ」
確かに……光があるなら闇もある……か。
腑に落ちてしまってなんだか悔しい。
「って……あれ……?」
アリシアさんに着いて行くと、僕たちは一番最初の入国審査の元まで戻って来てしまった。
「ここ、入国審査の、国の入り口ですよね?」
「はい、こちらに岩の神はいます」
すると、一つの部屋をコンコンと叩いた。
そして、中から欠伸をしながらのそっと男が出て来た。
「あ、騎士団長様だ。お疲れ様です」
ん? この声……。
「僕の入国審査をした受付兵の方ですよね!?」
「ああ、『日本』とかよく分かんないこと言ってた君か!」
「よく分かんないこと言ってた人を通さないでください!」
そう言うと、アリシアさんは男の頬を捻った。
「いたたた、アリシアちゃん痛い……」
「えっと……で、こちらの方が……?」
「はい、岩の神 カズハ様になります」
守護神が騎士団長で、神は受付兵……?
「あー、そういや君は俺に会いたかったんだよな。ちょっと入国の人多かったから、最初アリシアちゃんのところへ向かってもらおうと思ってな、すまんすまん!」
そう言うと、悪びれもなく手を合わせた。
なんだか、岩のカチカチした想像とは真逆の、風のようにフワフワした雰囲気の男だった。
「じゃあ、君が『いずれ訪れる七神の加護を回る旅人』でいいんだな?」
「はい、既に風・炎・水の神たちと会って来ました」
「うわ! ゴーエンに会って来たのかよ! アイツ怖かっただろ〜!」
岩の神 カズハさんは、他の神たちとも仲が良さそうで、今までの旅路を楽しく話すことが出来た。
「あ、そうだ! 今夜はウチ泊まってけよ! まあ、ウチって言っても騎士兵の宿屋なんだけどな! あ、ちゃんと女の子は女性騎士の部屋があるから安心してくれ!」
そう言うと、騎士団総本部の奥へと案内し、僕たちを男女に分け、僕とアゲル、アズマの三人は、カズハさんの案内の元に男部屋へと入って行ったのだが……。
「よっしゃあ! 俺の勝ちだ! イッキ! イッキ!」
「ガハハハ! お前ら、休憩の兵士はちゃんと休憩しなきゃダメだろ!」
中では、上裸の男たちが腕相撲大会を開き、酒瓶がゴロゴロと転がっている騒がしくむさ苦しい場所だった。
「あ、カズハさん! 腕相撲しましょうよ!」
「いんや、今日は客人が来てるもんでな。お前ら、少しは片付けておくんだぞ!」
そう告げると、綺麗な場所に僕たちの荷物を置かせてもらい、僕たちは一度、部屋の外へと出た。
「むさ苦しいところでごめんな〜!」
ヘラっとカズハさんは片手を上げた。
昔はこういう空気は凄く苦手だったが、旅をして行く内に少しだけ、愉快な気持ちになれた自分がいた。
加われと言われたら抵抗はあるが……。
すると、本部の最上階へ行き、更に上の展望台へと案内してくれた。
そこからは守護の国の全域が見渡すことができ、上から見るとすごく整った綺麗な街に見えた。
「おかしいと思ったか? 守護神が騎士団長を務めてて、神は下っ端の受付兵。まあ受付兵も交代制だから、傭兵したり学校の先生したりしてるよ」
そう言いながら、カズハさんは街を眺めていた。
「最初は確かにおかしいと思いましたけど、こうしてカズハさんと話していると、理由が分かる気がします」
僕が答えると、カズハさんは笑った。
「アッハッハ、俺みたいな奴に固い役職なんて無理無理! アリシアちゃんの方が打って付け〜!」
「カチカチ頭とは誰のことを言ってるのですか?」
背後からセーカとカナンとリオラさんを連れたアリシアさんが現れた。
どうやら女子部屋も同じような雰囲気だったのか、二人はげっそりとした顔を浮かべていた。
「ち、違うぞ!? 守護の国に相応しい、真面目でお優しい御方だ〜って話を……」
「それよりもカズハ様。神を巡る旅人が来たら、話したかったことがあったんですよね?」
「話したかったこと……?」
すると、二人の顔付きが変わっていた。
「ああ、君が来たら話したいことが……」
ザッ!!
その瞬間、まさに一瞬だった。
守護の国は、周りも、上空ですらをも岩石でスッポリと覆われた国だ。
その上空に聳える岩壁が、パックリと消滅し、綺麗な空が映し出された。
その途端、本部全体に緊急警報が鳴らされる。
「緊急警報! 緊急警報! 敵は上空!!」
敵は上空……? 飛んでるのか……?
「ドラゴンです!!」
龍……!!
僕が呆気に取られていると、カズハさんはヘラっと呟いた。
「ッカ〜! 龍か〜! バベルさんが生み出した最古の魔物、俺も直で見るのは初めてだな〜」
そこには余裕にも見える口調に見えた。
「カ……カズハさん! 龍ですよ!? 竜が攻めて来たのに……そんな悠長な……」
「ヤマトくん。俺は “神” だぜ? 龍の一匹くらいなら、まあ大丈夫かな〜」
そうだ……龍を見るのは初めてだが、今まで龍族の一味と戦って来て、七神は龍族の一味より遥かに強い。
他の神みたいに、『戦えない』って制限がないなら、カズハさんがいれば大丈夫かも知れない……!
「続報をお知らせします!! 魔法学校の生徒全員が操られている模様!! 騎士団本部へ攻め入って来ています!! 騎士団長、指示をお願いします!!」
カズハさんの余裕は、青ざめた顔を見て分かった。
神の力は確かに絶大……でも、だからこそ、その強力さ故に、本当に守りたいものを守れない。
「アリシア! 龍は俺一人でなんとかする! 騎士団の指揮を取って、生徒全員を気絶させろ!」
「分かりました!」
神と守護神の関係を知らなければ、傭兵が騎士団長に指図している絵柄にも見える。
しかし、やはりカズハさんは紛れもない岩の神を努めていた。
「絶対に、誰一人死なせることは許さない!」
「僕たちはどうしましょうか、ヤマト」
「カズハさん……僕たちは……!」
「一緒に戦ってくれるか! ヤマトくん、なら、全員でアリシアの援護に回ってやってくれ」
「分かりました!!」
そして、全員で急いで本部内を駆け抜ける。
階段の途中で、僕は一人の男に止められる。
「やあ、初めましてだね……」
「貴方は……?」
聞かなくても分かる。龍族の一味だ……。
「どうしました? ヤマト?」
見えてないのか!?
「僕は龍族の一味 “研究者” のガンマ。他の人に僕の姿は見えていないよ。何故ならこれは “幻影” だから……」
幻影……自由の国の……幻影魔法の龍族か……!
「今日は少し大所帯でね。簡単に潰れちゃっても困るからアドバイスに来てあげたんだ。岩の神は一人で龍討伐に向かったようだけど、それじゃあ岩の神は死ぬよ」
カズハさんが…… “神” が敗ける……?
「岩の神が相手にしようとしているのは、七龍の中で最も強力な力を持つ炎龍。そして、炎龍を暴走させない為に操っているのは……」
僕は唾液をゴクリと飲み込んだ。
今まで、龍族で見たことのない属性だ。
「龍族の一味が “長” 炎龍の加護を与えられた人だ! ははは! この宴を愉しもう!」
そう言うと、ガンマと言う男の姿は消えた。
「ヤマト、どうしたんですか!? 急がないと!!」
「ごめん、今、僕の目の前に幻影魔法の龍族の男が現れたんだ……。やっぱり僕だけでも、カズハさんの援護に行ってくる!!」
そして僕は再び、展望台へと駆け上がった。