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「わたしは細身の男が好きなのよ」
お姉がそう叫んだ。
そんなこと今更言うなよ、しかもうらしまに向かって。
「そのプニプニしたお腹を何とかしなさい」
お姉から突然の断食命令。
例によって「あふんっ」と身をくねらせるうらしま。
「試合前のボクサーみたいに、果敢に減量に挑戦する!」
奴は宣言した。
そしてそのままアタシの側を離れようとしない。
「何やねん。アンタのダイエット作戦に、否応なく巻き込まれるのはゴメンや。アタシは自分のことでいっぱいいっぱいなんや」
「そう言わずにがんばろうよ」
ポン、とうらしまがアタシの背を叩く。
「イヤや。頑張れへんわ。ちょっ……何、その目?」
うらしま、じっとアタシの足元を見てる。
無理矢理鉄ゲタ履かされたアタシ──何ていうか、そういうプレイ的な感じが羨ましくてしょうがないらしい。
かぐやちゃんにヒドイ仕打ちを受けて、アタシはすぐにお姉の元へ泣きついた。
ズシンズシンと足音がすごい。
階段を降りる時の激痛も想像を絶するものがある。
鉄ゲタの重みで皮膚だけ千切れそうや。
「有無を言わせずってところがイイな。無理矢理履かされちゃったっていうのが。つまりそういうプレイ的な」
妙なこと言ってるドM野郎。
だからプレイって何やねん!
「……かぐやちゃんに頼めばいくらでも履かせて(貼り付けて)くれるで」
「何だ、その言い方。リカちゃんは、この微妙な受身の心理ってのが分かってない! 無理矢理履かされるっていうのがイイんだ。僕の身体は嫌がってるけど、そこまでされたら心は……みたいな」
「何言ってるんか、さっぱり分からへんわ。そんな微妙な受身の心理なんて」
つくづく不憫な男やで、このM男。
一緒にダイエットにはげもうよ、と奴にアパートの玄関脇に連れてこられた。
「イヤや。ダイエットなら1人で挑戦して。アタシも1人でやるから。これ以上ムカツク状況作りたくないねん」
「あふんっ・いち! あふんっ・に!」
嫌がるアタシの目の前でM男は服を脱いだ。
マイペースに腹筋運動を始める。
動くたびに気持ち悪いあえぎ声が漏れるのだ。
普通「フンッ! フンッ!」とか言ってやるもんちゃうの?
何でこの人、常に「あふんっ」なの?
それが連日続いた。
「リカ? あなた、見る度にグロッキーになっていくわね」
お姉に言われたのは3日目のことだったか。
「まぁな…。精神的なもんや。あと、足が重くてな。ハハ……」
アタシは中途半端な笑みを返す。
この鉄ゲタ、24時間存在を主張する。
想像を絶する苦痛や。
寝てる時ですら足が重くて寝返りうたれへん。眠れん……。
更に起きてる時はアパートの玄関先でうらしまと腹筋。
「恥ずかしいから別のところでやろうな」
そう言っても義兄は聞く耳を持たない。
「アフンッ・いち! アフンッ・に!」
ようやくアタシは悟った。
この人は恥ずかしさを求めて、わざわざここで裸になって腹筋してるんだと。
「まぁ、駅から徒歩25分の田舎で、あまり人通りもないし。いいわ、もうどうでもいいわ」
諦めてアタシも腹筋に精をだす。
すると突然、周囲にざわめきが起こった。
「あっ! ホントにいた! 鉄ゲタ兄妹~♪」
アタシらを指差して、子供らが携帯を向ける。
パシャパシャ写真を撮られた。
「な、何や?」
ランドセル背負ってる。小学生や。
あっ、アタシのパンツ盗んで1─3に並べた奴らや。
「鉄ゲタ履いたオカシナ兄妹がホントにいた~♪」
「エロい声あげて筋トレしてる~♪ららら~♪」
「バーカ、バカバカバ~カ♪」
ヘンな歌まで作られてるし!
「ち、違う! 誤解や! アタシはコイツとは兄妹ちゃう! 兄妹いうても義理の間柄やし。同じ血は一滴も流れてへんわ!」
アタシは立ち上がり、子供たちに向かって大声を張り上げた。
「きゃー!」と叫んで奴らは逃げて行く。
「リカちゃん、抗議するポイントはそこなんだ……」
うらしまが背後で悲しそうにうなだれる。
「ち、違ッ! いや、あの……」
正直言うと、その通りです。
義兄よ、ごめんなさい…。
※ ※ ※ ※ ※
アタシの細胞(足裏)が死んだのは、それから1週間が経ってからのことだった。
「33.トラウマ万歳~よみがえる不毛人生初期のころ」につづく