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腕時計と貴方の愛

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腕時計と貴方の愛

1 - 腕時計と貴方の愛

♥

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2020年03月16日

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卓馬

……ん

そっけない言葉と共に 渡されたのは小さな紙袋

紅を差したような真っ赤な顔と 震える指が示すものが

“愛”のような気がして

取りこぼさないようにと 慌てて袋を受けとる

軽くて少し高級感のあるそれの中には小さな箱が入っていて

箱を開けると腕時計が入っていた

晴香

これ…

卓馬

付き合って一年記念日だから…

晴香

覚えてたの…?

卓馬

…まぁ

晴香

……ふふっ

いつもは素っ気ないくせに 記念日は覚えてるのね

自分の誕生日を忘れて私が折角祝っても薄い反応したのにさぁ

本当、そういうところ大好き。

晴香

ありがとう…

卓馬

気に入った?

晴香

もちろん!

頷くと、彼も安心したように 口元を綻ばさせた

その顔が嬉しくて 早速腕時計を身に着けた

晴香

綺麗…

卓馬

似合ってんじゃん…

晴香

流石、センスあるね

卓馬

そんなことは……

晴香

あるよ

その言葉と同時に彼の胸に飛び込むと、温かい手が頭に乗った

髪の毛を通して 優しさが伝わるみたい。

晴香

ふふ、暖かい…

卓馬

二人で、この時間と共に

卓馬

思い出も刻んでいけたらいいな。

とんとん、と腕時計を 叩きながら彼が笑った

晴香

珍しくキザなこと言うね

卓馬

うっさい笑

照れ隠しなのか

ふい、と顔を背ける彼

晴香

ずっと大切にするね

卓馬

あれ、まだ時計使ってくれてるの?

晴香

当たり前じゃん笑

卓馬

……ありがと。

あの日から3年

私はずっと あの腕時計を使っている

細部は少し 年季が入っているけれど

お守りのような 安心感があったから

晴香

イワシの大群綺麗だなー…

卓馬

鱗がキラキラしてていいね

晴香

この中の一匹くらいは、海だと食べられちゃうのかな

卓馬

襲われたら食べられるんじゃない?

卓馬

弱肉強食、ってやつ

切ないなぁ寂しいなぁ

なんて、心の何処かで思う

だけど

晴香

こうやって世界が回っていくんだろうね

卓馬

急に深いな笑

晴香

ちょっとね笑

こんな会話をしている最中にも 何処かで弱い者は 強い者に負けていて

世界を回している何かが存在するものがあることを忘れそうになる

卓馬

まぁ、お前が食べられそうになったら

卓馬

俺が守るから安心しとき

茶化すように言うのに 瞳だけは真剣そのもので

感じられるだけの愛を掬いとって 記念に瞼のシャッターを切った

なんとなく、泣けてしまいそうで 目線を水槽に移す

晴香

私、何もお返しできてないね

卓馬

んー?

晴香

“愛”ってやつ。

卓馬

そう?

卓馬

俺の方が貰ってる気がするけど

晴香

うそ、どこが?

卓馬

例えば

卓馬

腕時計とか。

晴香

なっ…

不意打ち過ぎて動揺する

私にとっては当たり前すぎて 私にとっては愛の一欠片で

晴香

これは…

卓馬

ずっと使ってくれてるとこ、本当嬉しい

卓馬

これも“愛”なんじゃない?

晴香

……そう、かな。

卓馬

違いないよ

晴香

そっか。

そっと腕時計を撫でたら 触れ慣れた硬い感触

体温を持たない筈だけど なんとなく、温かい

心まで温かくなったのは 彼の魔法…?

急に腕を掴まれて

腕時計が付いている方の手を 握られたのは

ここだけの話

晴香

水族館、楽しかったぁ…

卓馬

また行こうな

晴香

もちろん!

私達は二人で 横断歩道の前に立っていた

繋がれた手はそのまま

彼の暖かさに溺れていた

晴香

なんか、いいね

晴香

幸せ

卓馬

なんだそれ笑

見つめ合って笑ったその時だった

卓馬

危ないっ!

晴香

え?

困惑したのもつかの間

体が右に押される感覚があって されるがままに突き飛ばされる

聞いたことのない衝撃音が 耳を襲って頭が混乱した

晴香

卓、馬…?

全壊寸前のトラックと 血まみれのコンクリート

あり得ない方向に曲がった関節が痛々しくて見ていられなかった

即死なのはすぐに分かった

分かったけど

いかないで

割れた腕時計が悲劇を示していた

彼はもうどこにもいなくて

突き飛ばされた拍子に 割れて壊れた時計が

事実を訴えているみたいだった

まだ、使いたかった

彼との思い出と共に この時計で時を刻みたかった

あと一分

一秒でいいから

彼と笑いたかった

貴方はいつまでも優しくてさぁ

素っ気なくてお人好しで いつだって愛に溢れてた

その愛の一欠片が この腕時計のような気がして

他のどんなものよりも 大切にしてたんだ

腕時計と共に私たちの時間も 止まっちゃったみたいね

なんて、遺影に笑いかけても 彼は笑ってくれない

私の手首を撫でると 今は肌が触れ合うだけ

でも今では

彼の愛にも触れている気がした

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