TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
シェアするシェアする
報告する

真冬の冷たい風が、 教室のカーテンをなびかせる。

すっかりオレンジ色に染まった夕焼け空は、

私の胸を高鳴らせる。

新一

悪い、莉桜。待たせたな

そう私の名を呼んだのは、

幼馴染の高松新一。

家が隣同士で、生まれた頃からずっと一緒に 過ごしてきた。

新一はここ数年で一気に身長が伸び、 声も低くなった。

あんなにずっと近くにいたのに、

いつの間にか大人になった新一を見て

少し焦る今日この頃。

RIO

新一、遅いよ!
待ちくたびれたじゃない

新一

しょうがねぇだろ

新一

赤木先生に雑用頼まれたんだからよ

新一

たく、俺をこき使いやがって

RIO

新一が授業中に寝てるからでしょ

RIO

いつも注意されてるのに

新一

はいはい、すみません

新一

そう怒んなって。
帰りに鯛焼きでも奢ってやるから

RIO

鯛焼き!? 食べたい!

新一

相変わらず食い意地張ってんな

目の前で笑った新一の顔が眩しい。

いつからだろう?

こんなにも彼を愛おしく想うようになったのは。

新一

莉桜? 何だよ、急に黙り込んで

RIO

あ、ううん

──その時、外から何やら歓声が聴こえてきた。

新一

ん? 何だ?

窓から下を眺めてみると、 校庭にはサッカー部員の姿。

RIO

あ……昴先輩

男子生徒A

ナイス、昴!!

男子生徒B

さすがキャプテン

男子生徒B

最っ高のシュートですね

サンキュ、お前らのおかげだよ

男子生徒A

昴、後輩が教室から眺めてるぞ

後輩?

ああ、莉桜ちゃんか

男子生徒B

あの子、、、キャプテンに気があるんじゃないですか?

男子生徒A

お前も気になってたりして

まさか、あの子は可愛い後輩ちゃんだよ

それに莉桜ちゃんが想ってるのは、
いつも隣にいる彼だからね

あの二人の間には誰も入れないよ

男子生徒B

そうなんすか?

早くくっつけばいいのに

昴先輩は、ひとつ上の学年で、 サッカー部ではキャプテンを務めている。

廊下で会う度に優しく微笑んでくれて、 全生徒にとっての高嶺の花だ。

RIO

凄いな〜、昴先輩

RIO

この前の試合でも大活躍だったんだって

新一

……そんな凄いか?

RIO

凄いよ

新一

キャプテンなら
それくらい出来て当然なんじゃね?

RIO

もう!
新一はすぐそうやってイチャモンつける!

呆れつつ、 少し拗ねたような新一の表情に 不覚にもときめいてしまう。

新一

莉桜は昴先輩のことばっか

RIO

そりゃあ、憧れの先輩だもん

新一

ふーん

新一

じゃあ、俺のことはどうなんだよ?

RIO

べ、別に新一なんて……

そう言いかけて、やめた。

私に問い掛けたその声が、 いつもより真剣だったように感じたから。

RIO

何よ、そんなこと聞くなんて新一らしくない

新一

いや……

新一

お前の傍にいる男は俺一人で充分だろう?

途端に心臓の脈が速くなる。

少しでも近付いたら、 彼に聞こえてしまいそうなほど……

新一の目を見ることさえもままならない。

──どうしてそんなこと言うの?

──どうしてそんな顔をするの?

まるで私のこと、好きみたいじゃん……。

“ 好き ”

自分の一方的な想いだと 封じ込んでいた言葉なのに、 それが今にも溢れ出しそうになる。

期待と緊張が高まっていった。

けれど──

RIO

……やめよう、私たち、幼馴染なんだし

私は逃げ出した。

RIO

幼馴染だから

恋心に蓋をした。

これまでと変わらない温かい光を求めて。

気持ちを悟られまいとするかのように。

新一

っ……

が、その瞬間

新一の瞳が悲しげに揺れたのを 見逃さなかった。

新一

一応……俺も男なんだけどな

消え入りそうなほど細い声だった。

それでもこの教室に確かに響いた。

しまった、と思った。

気付いた時には、新一に腕を掴まれていた。

もう“ 男の子 ”ではない“ 男 ”の力。

RIO

新一……

新一のこんな顔、知らない。

言葉も出ない。

新一

莉桜……俺は──

次の言葉を待った。

けれど、新一もまた、何かを迷っていた。

期待した言葉が出てくることはなかった。

その時間は長かったのか、短かったのか。

私たちだけの世界のように思えた。

2人の沈黙を打ち破ったのは、 部活動終了時刻を知らせるチャイムだった。

新一

帰るか

新一の一言で我に返った私は、 戸惑いながら小さく頷いた。

心の中で渦巻いているのは、 ちょっとした後悔と罪悪感。

私は今、新一に言葉を呑み込ませてしまった。

理由は分かる気がする。

要するに怖いのだ。

今のあたたかい関係が壊れるのが。

傷つくのが。傷つけるのが。

新一が好きであることは真実なのに。

それより大切なことなんてないはずなのに。

新一

おい。お前、なんて顔してんだよ

RIO

え?

新一

これでいいんだよ、俺たちは

新一

今のままで

冷たいようで優しさのあるセリフに 私の心は締め付けられた。

新一

俺が大切にしたいのは莉桜だから

新一

莉桜がそこにいればいいから

……うん。そうだ、いい。このままでいい。

今のまま、このままの心地よい関係が、 もうしばらく続いてほしい。

RIO

……ありがとう

新一

ほら、さっさと帰るぞ

あっという間にいつもの笑顔に戻って 教室を出ていった新一。

さっきの言葉の続きは分からないけれど、 ひとつだけ分かることがある。

きっと私も新一も同じなのだろう。

ただお互いが大切で、失いたくない。

RIO

バカだな、私

外はもう、陽が沈もうとしていた。

行き場の無い感情を、 どこにどうぶつけたらいいのか

考えても答えは出なくて、 私は新一の机に “ ある2文字 " を書き残した。

少しラクガキがある机の左下。

気付かれないのではないかと思うほど 小さな文字で。

私は新一とのいつかの未来を思い浮かべながら 彼のあとを追った。

どうか、新一との明るい未来が続きますように

その時が来たなら、 文字ではなく言葉で伝えられるだろうか。

──新一が好きだと。

*END*

この作品はいかがでしたか?

100

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚