テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
夏都side
週明け月曜日も全国的に 容赦なく晴れマークが並んでいた。
ここ六奏高校も猛暑の影響を受け クーラーのない教室は 蒸し風呂のようだ。
赤暇なつ
俺は手元の文字を追うのを止め すっかり熱を持った机の上に突っ伏す
返却期限が迫っていたので 昼休みは部室で本を読み耽る予定 だったがこのままでは紙が汗で 湿ってしまうだけになりそうだ。
それでも迷わずこの部室に来たのは ここが俺たちの「城」だかはだ。
最上階の突き当たりも、物置代わりの 教室が映研の部室になったのは 高1の秋。
澄絺がひっそりとネットに 公開していたショートフィルムに 惚れ込み次回作を作って欲しい一心で 俺と威榴真は映研同好会を立ち上げた
翌年には同じくショートフィルムに 一目惚れしたという新入生たちを加え 正式な部活動として認められた。
前後して澄絺のフィルムが賞を獲り 学校から少なくない額の部費が 出るまでに急成長を遂げていた。
つい最近も澄絺は短編フィルムを どこかのコンペに出品したと 言っていたから近いうちに 部室の棚にトロフィーと賞状が 増えることになるだろう。
それだけ澄絺の映画を撮る 才能は突出していた。
赤暇なつ
俺は机の上に散らばった紙を見て もう何度目かになる問いを 自分に投げかける。
尋ねる相手はコンペであり 審査員たちだ。
そのためにも作品を完成させなくては ならないと分かっているのに どうしても最後まで辿り着けずにいた
最初はただ澄絺の新作が 見たいだけだった。
その願いを叶える為の場として 部を設立し、澄絺が思い描く 映画を撮る為「お手伝い」という 立場で参加していた。
それが変わったのは高2の冬 卒業記念に3人で映画を一本 撮ることも決めた時だ。
三人三様の好みがあり テーマ決めは難航した。
最終的に俺が提案した 恋愛ものでいこうと決めたのは 澄絺の鶴の一声だった。
春緑すち
当初ハリウッドの大作や コメディ映画が好きな威榴真は 納得できない様子だったが 澄絺の情熱に押され首を 縦に振っていた。
実際に制作が始まると意見の衝突が 増えていったのは澄絺と俺だった。
単館系と呼ばれるような エッジの効いた作品を好む澄絺は セリフで説明するのを嫌っていた。
画で見せる、感じ取ってもらうのが 信条だと言う。
対する俺はジャンル問わず 幅広く観るタイプで中でも 恋愛ものには目がなかった。
お気に入りの作品は脚本集や DVDを買い揃えるような コレクター気質もある。
とはいえ映画はファンとして 観るもので撮る側の信条など 自分にはないと思っていた。
けれど澄絺と意見を戦わせるうちに 俺は自分の想いに気付く。
恋愛ものが好きなのは 「言葉にできない気持ち」が 特に丁寧に描かれているから。
脚本中まで買うのは自分でも 書いてみたいと思ったからだと。
それもあって最後のシーンで 意見が分かれた時は真っ向から 澄絺にぶつかった。
春緑すち
赤暇なつ
俺の反論に澄絺は困ったように 笑いながら言った。
春緑すち
赤暇なつ
赤暇なつ
威榴真が苦笑して 「実はヒヤヒヤしてた」と零すくらい どちらも持論を譲らなかった。
そして長い話し合いの末 ここでも澄絺が俺の案を受け入れた。
「確かに俺は言葉をなおざりに しすぎてるかもね」と 柔らかな笑みを見せながら。
赤暇なつ
俺の提案も本心からだったが 後半は意地になっていたところもある
けれど澄絺は最初から最後まで 「自分の意見」に拘っていなかった。
いいものをつくりたいという 一心で動く彼には採用されるのが 誰のアイデアなのか 気にする様子はまるでない。
だから自分の意見を通すことに 固執しないし、いいと思った案には 素直に賛成し褒めることにも 躊躇いがないのだ。
澄絺には自分の求めるのものが 明確なのだろう。
同時に揺るぎない自信がある。
誰かの意見を受け入れたとしても 自分の映画作りには 変わらない核があると。
赤暇なつ
一朝一夕で手に入る物でないからこそ 自分のものにできた時自信に変わる。
そうなった時に初めて恋醒の前に 堂々と立てるのかもしれない。
放課後には美術部との ミーティングの予定がある。
卒業制作の映画に使う絵を蘭たちに 頼むことになっていて3人のうち 誰に描いてもらうか決める為だ。
最も、それには学校側の 許可が必要だったが。
赤暇なつ
赤暇なつ
いつか観た映画の名台詞を呟きながら 俺は自分を奮い立たせる。
誰かを羨んでばかりいるのは もう終わりにすると決めた。
next__♡500
コメント
1件